日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

奈良林直・北大大学院教授による原発安全審査への直言

日本エネルギー会議はこのほど、東京都内で「原発再稼動へ、安全審査の舞台裏」をテーマにワークショップを開催した。出席した北海道大大学院の奈良林直教授は「世界最高水準の安全性~適合審査の光と影」と題して、原子力規制委員会(規制委)、原子力規制庁による審査作業の問題点などについて、次のように解説した。

◆専門家が少ない規制委と審査長期化の関係
規制委の福島事故分析検討チームなどの委員をしていたので、規制委・規制庁には結構足を運んでいる。新規制基準作成段階でも、日本保全学会で原子力発電所の安全性を高める活動をしている専門家の意見を聞く検討会を開いて、その意見を集約、規制委・規制庁にパブリックコメントを出したり、保全学会のHPにも掲載しました。

こうした指摘については、規制委・規制庁でもかなり採用されていると感じます。ただし、規制委には専門家が少ない。更田豊志委員長代理は旧日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)で研究炉を使って燃料溶融の実験をされていたので、炉心損傷や過酷事故には非常に詳しい。でも、巨大な原発システム全体については、現在も勉強中だと思います。それ以外の委員は原発に詳しい方がほとんどいないのが実情。米国原子力規制委員会(NRC)には、専門的知識・経験を持つ専門家組織があり、そこで審議を尽くしてNRCに意見を提案するシステムを採用しており、最後は委員の投票で決める方式をとっています。

2013年7月に施行された新規制基準でどうなったかというと、福島第1原発事故で明らかになった非常用炉心注水系(第3層)の弱点である津波などの自然災害やケーブル火災に対する安全設備を強化するとともに、想定を超える過酷事故の緩和対策やテロ・過酷事故対応(第4層)を追加したこと。具体的には、防潮堤などの津波や竜巻対策、原子炉建屋の内部溢水対策、安全上重要な機器室の水密扉などが設置されています。防潮堤では東北電力・女川原発で海面上29m、中部電力・浜岡原発は22mという大工事が行われています。それに、耐震評価のための地質調査とかボーリング調査があるのですが、震源を特定しない17つの地震動解析評価の要求が次々に繰り出されたために、審査の長引く原因となりました。

◆菅元首相が放った“3本の毒矢”
2013年4月30日付けの北海道新聞に福島事故当時に首相だった菅直人氏のインタビュー記事が掲載されました。「原発ゼロに向けた民主党の工程表は、自民党政権に代わり白紙に戻されましたね」という記者の質問に対して、菅元首相は「トントントンと元に戻るかといえば、戻りません。10基も20基も再稼動するなんてあり得ない。そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会をつくったことです」と、自信たっぷりに語っています。

菅元首相のシナリオは、「活断層問題」「40年廃炉規制」「もんじゅと再処理施設の稼動停止」を3本柱とした原発ゼロ。こうした仕組みを規制委・規制庁に組み込んだというのです。“3本の毒矢”ともいえる仕掛けが、今日のとんでもない状況を生んでいるわけです。

そもそも従来の原発審査は、活断層の上に重要施設を造らないということで地質調査をした上で国から建設の許可が出ていますから、日本の原発は基本的に活断層の上には造られていない。活断層は震源から地表までを貫く巨大な断層です。でも、現在の基準では活断層の「活」の字を一文字削除して「断層」と書かれていて、単なる“ヒビ割れ”も全部一緒に審査対象になっており、「過去には動いていないのは認めるが、将来、動く可能性は否定できない」という非科学的な議論が行われている。こういう占い師のような摩訶不思議な見解が出されると、翌日の新聞朝刊は「活」の字を追加して、「活断層と判断」と報道しているのです。つまり、断層のひびと活断層が一緒くたにされている。「毒矢」のにおいがぷんぷんします。

40年超え運転審査の審査期間が異様に短いのも同じです。40年規制と活断層を組み合わせると、2030年代半ばには日本から稼動できる原発を全て消すことができる。強烈な毒矢です。

私は、現在原子力学会に設置した断層リスクの委員会で、断層が万一動いた場合の工学的安全対策に取り組んでいます。例えば、タービンの冷却水の海水配管が断層で動いて損傷したとしても、移動ヒートシンク車で冷却系をつないでやれば対応できる。工学的な安全対策は十分取れると考えます。

◆書類中心から現場主義の徹底を
新規制基準が施行されてから2年半が経過しました。安全審査がかなり遅延していますが、その要因の一つに膨大な審査関係書類作成があげられます。最初の審査合格、再稼動となった九州電力・川内原発の場合、書類は最終的にA4版40万ページにもなったそうです。日本の品質保証上、報告書に誤字脱字があると報告書の品質が悪いと判断されるので、まず、誤字脱字検査から始まる。このため、規制委・規制庁があるビルはこの作業のために「不夜城」になっている。これを効率化するには、加圧水型原子炉(PWR)、沸騰水型原子炉(BWR)ごとに、同じシステムを採用しているものについては、型式検査方式で対応できると思います。

規制委・規制庁の検査官の人材確保がうまく運んでいないようですが、NRCの検査官はシニアクラスになると、医師、弁護士、パイロット並みの給与水準だそうです。何故かと言うと、尊敬される立場の人だからです。彼らは、半年間の徹底的な訓練を受ける。実際の原発の中央制御室で、事故時に全て運転できないといけない。そういう人が中央制御室にいて、朝6時のミーティングから全て参加します。もし、トラブルがあれば「なぜ?」と何回も聞く訓練を受けている。その結果、現場の一番大事なところがわかってくる。重要な問題であれば、NRCの本部から全米の原発に運転改善命令が出されます。このように米国の規制は、日本のような書類検査ではなく、パフォーマンス検査といって、実際の発電所の安全上重要なシステムが機能することを最優先にする規制なんです。欧米はこれが主流です。

規制委・規制庁の審査で、BWRチームの優先審査対象に東京電力・柏崎刈羽6、7号機が選ばれましたが、規制委の更田委員長代理に話を聞きました。発電所を視察した際に、所員に「このバルブを閉めたらどうなるか答えてください」と質問をすると、ほとんどの電力会社では「後で確認してお答えします」という返事が返ってくる。自分勝手にしゃべってはいけないと教育を受けているのでしょうね。しかし、柏崎刈羽では現場にいる所員がその場ですらすら回答してきたそうで、これが優先審査とした理由とのことでした。会社としての安全文化につながる問題なのだと思います。原発で働いている全ての人が、事故が起きたときの対応を迅速かつ的確にできないといけないというのが、規制委のスタンスですから。この規制には光を感じます。

◆原子力の安全を推進するスタンスで
このように安全文化の向上で再稼動を加速させることも欠かせません。規制委・規制庁もやりすぎなところはありますが、電力会社で働いている全ての人たちに教育、訓練をしていただく必要があると考えます。これは、再稼動を進めるためのキーポイントになります。

あと、大切なのは安全対策が飛躍的に向上している現実を一般の方はほとんど知らないのが現実ではないでしょうか。先日行われたシンポジウムで会場にいらした方に「こういう水密ドアをご存知の方は挙手してください」と質問したところ、約230人いた中で、誰も手を挙げませんでした。つまり、こうした安全対策設備の情報が一般国民に届いていない。メディアもなかなか報道しない。ここも徹底する必要があります。私は冒頭で「このシンポジウムは原子力を推進するシンポジウムではありません。原子力の安全を推進するシンポジウムです。この趣旨に反対する方は会場から出て行ってください」と申し上げたのですが、誰一人出て行きませんでした。全員が合意です。これから、私の立ち位置はここに据えたいと思います。

2016.2.16
日本エネルギー会議事務局

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康