日本エネルギー会議

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“ゼロリスク”を求めた仮処分決定は、規制委の否定である

福井地方裁判所(樋口英明裁判長)は4月14日、原子力規制委員会の安全審査に合格し、再稼働に向けた準備を進めている関西電力・高浜原子力発電所3、4号機(福井県、PWR、合計出力174万kW)の再稼働を認めないとする仮処分を決定した。樋口裁判長は昨年5月、関電・大飯原発3、4号機(福井県、PWR、合計出力236万kW)の運転差し止め判決を出した裁判官。差し止め訴訟は、関電が名古屋高等裁判所金沢支部に控訴し、今後も審理が上級審で続けられるが、今回の仮処分決定は通常裁判の判決とは異なり、決定が出ればすぐに拘束力を持つため、今後の司法手続きで判断が覆らない限り高浜原発は再稼働できない。

関電は「多数の事実誤認がある」として、17日に運転差し止めの仮処分取り消しを求める保全異議を福井地裁に申し立て、これには別の裁判官が決定を出す。それでも主張が通らない場合、名古屋高裁金沢支部に抗告し、こうした過程で決定取り消しが認められれば再稼働できる。今年11月の再稼働を目指してきた高浜原発だが、実現が大幅に延びる可能性を否定できないだけでなく、この先の見通しが全く立たない状況に追い込まれた。

◆計算しつくされた原告側の打算と樋口裁判長の思惑
こうした仮処分決定が出るとの「予測」は決定前からあった。再稼働阻止を図る原告側は、大飯原発判決に力を得て、樋口裁判長の下で仮処分決定も勝ち取ろうと昨年12月、福井地裁に高浜原発の仮処分を申し立てた。仮処分の第1回審尋は今年1月28日。原告側は樋口裁判長の大飯判決を引用し、同じ論理を繰り返した。さらに、慎重審理を求める関電の主張を無視。3月11日の第2回審尋で、樋口裁判長は「機は熟した」として審尋の終結を宣言。関電側は「議論が尽くされていない」などとして、裁判官交代を申し立てるなどしたが福井地裁と名古屋高裁金沢支部で却下された。この時点で、今回の仮処分決定は「予期された出来事」であったといえる。

しかし、今回の司法の対応には、理解できない面がある。樋口裁判長は4月1日付で名古屋家庭裁判所に異動となったが、名古屋高裁が「福井地裁判事職務代行」の辞令を発令したため、4月14日の仮処分申し立てを引き続き担当、決定も出したのだ。

仮処分の審理は通常1年程度かかるとされるが、申し立てから4カ月。審尋もわずか2回で科学的、技術的な専門家からの意見を聞くこともなく、「機は熟した」として審理を終結させた裏には、自らの異動、転勤を察知した思惑もあったと推測できる。司法の分野は、もともと一般国民には内情がわかりづらい世界だが、今回の仮処分決定をめぐる展開はそれに一段と拍車をかける出来事といえないだろうか。

◆仮処分決定で原子力規制委は、事実上当事者となった
今回の仮処分は、高浜原発をめぐる関電と住民による係争であるが、決定文のポイントが原子力規制委員会の策定した新規制基準の「全面的否定」である点からして、規制委・規制庁も事実上当事者になったと判断するのが自然であろう。

樋口裁判長は決定で「新規制基準に求められる合理性は原発設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こす恐れが万が一にもないといえる厳格な内容を備えていることと解すべきで、新規制基準は緩やかに過ぎ、適合しても本件原発の安全性は確保されず、合理性を欠く」と断言。ここからは、新規制基準を満たしても高浜原発は安全性が確保されない、さらには原発に絶対安全の「ゼロリスク」を求める意図が込められていると解釈できる。

仮処分決定に関して、原子力規制庁の事務方は「原子力規制委・規制庁は当事者ではない」と記者会見で明言しているが、規制委・規制庁も実質的に当事者となったのは明々白々だ。

◆田中規制委員長は「事実誤認がいっぱい書いてある」と明言
規制委の田中俊一委員長は4月15日、定例記者会見に臨んだが、当然、高浜原発問題に質問が集中した。会見内容の速記録全文は、規制委のホームページで読めるので、記者やフリージャーナリストの質問内容も含めてぜひ参考にしていただきたいが、ここではポイントになると考えられる田中委員長発言を紹介しておく。
「(仮処分決定について)いくつかの点で、十分に私どもの取組が理解されていないところがあったようにも受け止めています。私は度々ここでも申し

上げてきましたけれども、絶対安全ですとは申し上げませんということを言ってきました。絶対安全を求めると、結局事故は起こらないという安全神話に陥るということの反省からの、私どもはそういう立場で、常に安全を追求する姿勢を貫くということでやってきているのですが、そういった趣旨が、意味が御理解頂けなかったということは、極めて残念だというか、遺憾だと思います」

「(事実誤認問題に関して)私も細かいことを全部調べているわけではありませんが、耐震重要度分類で給水設備はBだと書いてありますけれども、これはSクラスです。それから、外部電源のところですけれども、外部電源について、SBO(全電源喪失状態)を防ぐということで、我々は非常用発電機とか、いわゆる電源車とかバッテリーとか、いろいろな要求をしております。外部電源は商用電源ですからCクラスですけれども、非常用電源についてはSクラスになっています。ですから、ざっと見ただけでも、そういった非常に重要なところの事実誤認がいくつかあるなと思っています」

「絶対安全ということを言わないというのは、一種の私の科学者としての哲学みたいなものなのです。多分これは世界共通だと思います。そういう技術は世の中に存在しませんのでね。飛行機は落ちるし、電車だってひっくり返ることもあるし、ですから、そういうことを含めて、やはり我々はそこでどのように受け入れて、技術を使っていくかということ、これは国民一人一人が考えるべきことだと思います。別に原子力に限ったことではありません」
田中委員長独特の慎重な表現ではあるが、樋口裁判長の仮処分決定に対して具体的な反論をしているのは明らかだ。

◆司法による「非科学的原発停止ドミノ」は日本を滅ぼす
4月14日の福井地裁の仮処分決定は田中委員長の指摘にもあるように、事実誤認が多くあるという現実を直視しなければならない。こうした決定を生んだ最大の原因は、科学者・技術者ら専門家の意見に耳を傾けようとせず、原告側の「即時原発ゼロ」を目指す狙いを文章化したものとしか言いようがないところにある。関電の異議申し立てを受け、司法が早期に「是正措置」を講じるように強く求めておきたい。

22日には、昨年9月、全国の原発で初めて再稼働の前提となる新規制基準に合格した九州電力・川内原発1、2号機(鹿児島県、PWR、合計出力178万kW)の再稼働差し止めを求めた仮処分申請の決定が鹿児島地裁で出される。川内原発の再稼働については、地元の薩摩川内市と鹿児島県がすでに同意、規制委が最後の手続きとなる使用前検査に入っており、7月にも原子炉が起動する段階を迎えている。

もし、ここでも高浜原発と同様の決定が出されるような結果になれば、司法による「停止ドミノ」は全国に広がる懸念が生まれる。そうした事態になれば、電気料金はさらに大幅に上昇、日本経済に深刻な打撃をもたらすのは、1973年の第1次石油危機の歴史を振り返るまでもなく明らかだ。我が国の脆弱なエネルギー安全保障は崩壊し、地球温暖化問題への対応でも世界の批判を受けるであろう。それは、日本の存亡に関わる重大問題である。

2015.4.21
日本エネルギー会議事務局

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