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エネルギー、「政商」の危険−書評「孫正義の参謀」 石井孝明(ジャーナリスト)


(写真1)再エネ振興の会合。菅直人氏、孫正義氏と文化人(2011年5月、注・テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のキャプチャー)

社会の動きのきっかけをつくる一つが、政府や自治体の政策だ。その政策が特定の人だけによって作られると、視点がせばまり、想定しない問題が起きることがある。日本のエネルギー政策、そして再エネ振興策では、それが起こった。

元ソフトバンク社長室長で元民主党衆議院議員であった嶋聡氏の書いた「孫正義の参謀―ソフトバンク社長室長3000日」(東洋経済、2015年刊)を読んだ。書評は普通本をほめるものだが、この読書は「がっかり」するものだった。


(写真2)

この本では、孫氏と嶋氏とソフトバンクが「再生可能エネルギー特別措置法」の成立に密接に関係したことが赤裸々に書いてあった。筆者の推定以上に、彼らは民主党の政治家と結びついていた。そして2人も周辺の政治家も、本を読む限りにおいて、自分らの行動のおかしさに気づいておらず、再エネ振興のために頑張ったと誇っている。それにおかしさを感じた。

落ち目の政治家がスターの孫氏にすり寄る

2011年の福島原発事故の後に、孫正義氏は、原発の批判、再エネ支援を打ち出した。それは社会的に評価を集めた。そこまでは問題ない。ところが、そこから孫氏は政治家との結びつきを強めた。そして多くの民主党の政治家も孫氏にすり寄ってきた。支持率低迷と党内での批判に直面していた当時の菅直人首相もそうだった。一議員より孫氏の方が、発信力も知力も財力もあるので当然だろう。

ここまではエネルギー政策をウォッチしていた私も知っていた。ところが孫氏と菅直人氏の関係は、私の思ったものより深かった。上記の本によると、菅直人氏は何度も孫氏に会って意見を聞いた。孫氏は民主党や政府の部会で政府委員や公職にないのに、民主党に頻繁に呼ばれて意見を表明した。

当時から現在まで、孫氏は次のような主張をした。「電力会社は悪いので、発送電分離によって解体すべき」、「太陽光に支援を」「再エネ補助金を優遇し、買い取り制度を入れよ」「買い取り保証は超長期で」「原発ゼロ」。そして民主党政権では孫氏の主張通り、発送電分離、太陽光への集中優遇、その強制買い取りでは世界で一番高い3年間1kWで42円の補助金を付与、20年支援保証、原発ゼロ目標が、政策として採用された。経産省が事前に出した案に、「政治主導」の名目で民進党の政治家らが、条件を再エネ振興の方向で上乗せしたことが多かった。

「誰が考えたのだろう。優遇しすぎで再エネバブルが起こる」と筆者は予想した。そしてその通りになった。再エネは急増の効果があったものの、それによる弊害も広がっている。2017年度の再エネへの補助金は2兆7000億円もの巨額になる見込みだ。この金は、国民の電気代への賦課金であり、外国企業を含めた再エネ設備の設置者に与えられる。(参照日本エネルギー会議4月1日掲載の筆者記事、「行動の前にちょっと待てーエネルギー制度作りで必要なこと」http://enercon.jp/topics/10528/?list=contribution)

そして孫正義氏は「利害関係者」だった。ソフトバンクグループは支援制度を使って大規模に再エネビジネスに参加している。ビジネス界と政治・行政の政策が協力することは必要だ。しかし、この問題では孫氏の影響が大きすぎた。政治家との関係強化は、人脈を持つ元議員の嶋氏が仲介した。見方によって異なるだろうが、元政治家を使って政治的影響力を行使したと言えるし、「政商」と批判を受けても仕方がない。

ゆがんでしまった再エネ政策

専門家を排除して、合理的な政策決定ではなく、民意に迎合した政治をする−−。これは民主主義の国で起こりがちな問題だ。民主党の菅直人政権では、専門家ではなく、衆議を集めず人気者で影響力のある孫氏の意見を重視した。ところが作られた再エネ振興策は「きれいな」「すばらしい」政策ではなかった。

私は、孫正義氏も、嶋聡氏も、優秀な人であると思うし、企業人として尊敬している。孫氏と、嶋氏は「再エネ振興は正しい」と真剣に考えているのだろうし、また2人のエネルギーの未来を作る志に共感する。

しかし人間はいくつもの矛盾した顔を持つ。彼らがしたたかに動いた結果国民全体には利益をもたらさない、しかし彼らのビジネスには利益をもたらす、政策がつくられてしまった。

この本は「正義を声高に叫ぶ人に気をつけよう」ということを改めて教えてくれる。本のエネルギー部分について言うとと、読後感はいい気持ちがしない。そして再エネだけではなくエネルギー政策全体に今、一部の民意や政治家が左右する「ゆがみ」が現れていることに気づかせてくれる。

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