山本隆三

国際競争力,安全保障,温暖化対策

山本隆三
常葉大学経営学部教授、国際環境経済研究所理事

―2030年の電源構成比率の評価について
温室効果ガスの排出目標との辻褄合せと言わざるを得ないです。COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)に向けて、欧米と比べて遜色ないCO2削減の数値目標を示し、それを達成するためにはどうすればいいかという意味の辻褄合わせです。世論に配慮し原子力の比率を再エネの比率よりも小さくしなければいけない、温室効果ガスの削減、これ以上の電気料金の値上げは出来ない、再生可能エネルギーの大量導入などの諸問題を抱えており、それらの辻褄をどう合わせていくかという結果が、この電源構成比率だと思います。ですから、殆ど実現不可能な数字だと思います。
例えば石炭火力、歴史的に石炭価格は化石燃料のなかで競争力があります。しかし、これからも競争力があるとは限りません。中国はいま日本を抜き世界一の石炭輸入国です。中国・インドの輸入量がさらに増え、石炭価格上昇の懸念があります。中国は大気汚染問題への取り組みの一環として、今年から沿岸部の石炭火力発電所において、高品質の石炭以外の輸入を禁止する規制を発表しました。低品位炭というのは、水分が多く自然発火するために輸送が難しく、発熱効率が非常に悪い。そうなると、高品質の石炭の奪い合いが起こり、価格が上昇する可能性があります。想定している比率が達成できるか不透明です。
LNGについては、米国のシェール革命によって安価なLNGが輸入されると思われるかもしれませんが、恐らく安価なLNGは入って来ません。米国が輸出を行うためには、天然ガスの液化設備、輸送(パイプライン)、港湾設備への投資が必要です。これらのコストを計上すると、ハーバード大学のマイケルE.ポーター教授は最近の論文で、日本への輸出価格を100万BTU当たり11米ドル程度としています。今の輸入価格より少し高いレベルです。
原子力については、リプレースの話が全く聞こえてこない。2030年に20~22%の原子力が必要だというならば、今から計画を進めないと間に合いません。政府は、40年で廃炉です、場合によっては20年延長します、と言っているだけで、どのように達成するのか、誰が保証するのかという中身の説明が全くない。電力自由化が迫っているわけですから、リプレースをするのであれば、英国のように買取価格を保証するなどの制度設計を進めないと、設備投資する企業はいません。

―英国の原発版FITとは、どのような制度なのですか?
英国政府はこの制度を「差額保証契約 Contract for Difference」と呼んでいます。市場価格との差額を常に保証し、発電された電気の売値を保証する契約です。市場価格にかかわらず、一定額が政府系機関によって事業者に支払われます。天然ガスにおいても、発電設備への投資を促す政策として、「容量市場」を導入しています。天然ガス火力の発電設備を建設する事業者は、設備を造れば、発電量がなくても、一定期間設備に対する支払いを受けることが出来ます。つまり、天然ガス火力に競争力が無く、長時間発電出来なくても、一定の収入が保証されるので、設備投資する事業者が現れます。日本でいうところの総括原価方式と同じです。

―その総括原価方式ですが、2016年の電力小売り全面自由化に伴い、経過措置期間を経て廃止される見通しです。
イギリス政府が何故、差額保証契約や容量市場を導入したかというと、自由化に伴い、総括原価主義が廃止され、発電設備への投資に関する収益の保証が無くなったためです。アメリカで現在5基の原子力発電所が建設されていますが、電力が自由化された州での新設は1基もありません。
つまり、将来の燃料価格・電力価格が予測出来ない中で、発電設備建設の為に巨額の投資を行う企業はいないということです。そう考えると、自由化されて新電力(特定規模電気事業者)の発電設備が増えて、電気料金が安くなるというのは、間違いだと思います。
既存の電力会社のようにあらゆる発電設備を保有しているのであれば、需要に応じた発電設備の調整は可能ですが、例えば、LNG火力しか保有していない企業は、燃料価格が上昇してしまったら、競争力は無くなります、売れないということです。そう考えると、設備投資を行う事業者は限定されます。

―温暖化問題への取組みについては
日本が目標達成(2013年比で26%削減)するためには、1973年のオイルショックから20年間で産業界が実施してきた省エネを、同じ比率で実施するという無謀な目標が含まれています。日本は73年からの20年間で産業部門の名目GDPを3.8倍にしたにも関わらず、1次エネルギー消費は4%削減するという、物凄い省エネを実施しました。しかし90年代後半から、日本の産業界は長い低迷の時期を迎えます。デフレ経済に陥り、省エネに必要な設備投資を産業界が止めてしまった。設備が更新されないとエネルギー効率が改善されることはありません。
EUは2030年までに1990年比で40%削減という目標を掲げていますが、日本の経団連に相当するビジネスヨーロッパをはじめ各業界団体からは、目標値を下げなければ国際競争力を失ってしまう、と堂々と発言しています。環境問題は大事だけど、国際競争力を失って国民の生活が苦しくなったらどうするの?ということです。また、海外に工場が移転し、結果として温室効果ガスの排出が増える懸念もあります。
単純明快な解答を出したのが英国です。国際競争力維持、安全保障と温暖化対策を同時に達成するには原子力エネルギーの利用は必須だと。英国国民の多数は原子力エネルギーの利用に賛成です。福島の事故以降の調査でも、エネルギー安全保障に寄与すると60%以上の国民が原子力の新設に賛成です。原子力エネルギーを使うリスクと地球温暖化、安全保障のリスクを比べたら、温暖化、安全保障のリスクのほうが大きいと考える国民のほうが多いわけです。ポイントとなるのは、経済成長を図りながら、温室効果ガスを削減するデカップリングの実現です。

―日本経済の見通しはどうでしょうか?
2000年代から高成長を遂げたアジア地域は、過去10年間でGDPの規模が約2倍に拡大し、今後も成長が見込まれています。ASEAN諸国の輸入額は年間100兆円以上で、日本の輸入額を上回っています。製造業がこの市場を獲得していけばいいのです。
それにはまず、電気代を下げることです。製造業の電気代の負担額は、震災後1兆円増え、既に4兆円になっています。利益に与える影響を考えると凄く大きいわけです。日本の製造業が失われた20年間から脱却し競争力を取り戻すには、結局は安価で安定した電力の供給が必要です。
製造業は、物流など関連する業界を含めると日本経済の3分の1を占めています。日本経済が元気を取り戻すには、製造業が復活することです。安定した電力供給と世界トップクラスの技術力を持ってすれば、脱デフレ経済の下20年間の低迷から脱却出来るはずです。

※発売中の「電力不足が招く成長の限界」(エネルギーフォーラム社)に詳しく記載されています。
是非ご覧ください。

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