松本真由美

日本の省エネ技術のポテンシャル

松本真由美
東京大学教養学部附属教養教育高度化機構環境エネルギー科学特別部門客員准教授、国際環境経済研究所理事

―2030年電源構成について(原子力発電)
40年廃炉を厳守すれば15%程度になるはずですが、新設やリプレースについて明確化されていないということは、長寿命化させ、さらに稼働率を上げることで、20~22%を保つという理解です。福島第一原発事故後、安全性への懸念が強まっており、事業者は徹底した安全対策とリスク管理の意識向上が求められ、再稼働に時間を要している状況です。一方、地球温暖化対策、エネルギー安全保障、産業への影響を考えると、依存度を低減させていく方向性ですが、2030年のエネルギーミックス案では、当面は重要なベースロード電源と位置づけられています。しかし、来年4月からの電力小売市場の自由化に伴い、総括原価方式が廃止された場合、原子力はマーケットから取り残されていく可能性があります。イギリスの“原発版FIT”と呼ばれる「※差額決済契約(CfD=Contract for Difference)」のような原子力を維持するための支援策について、経済産業省は議論を始めたところです。
※原子力発電がコスト回収できる基準価格を決め、一定期間固定価格で保証する制度

―2030年電源構成について(火力発電)
日本は、CO2排出量が多い石炭火力を国内外で推進していることに批判が出ています。途上国では褐炭火力発電が増えていますが、日本が推進を図ろうとしているのは、石炭を効率的に利用し、環境負荷を抑えるクリーンコール技術です。日本の技術を海外に普及促進を図ることで、CO2排出削減のグローバルな貢献が期待されています。日本でもIGCC(石炭ガス化複合発電)開発が注目されていますが、アメリカではIGCCのパイロット事業は高効率の発電に成功しているものの、商業ベースでは思うような成果が出せていない状況です。日本が今後、石炭火力発電とどう向き合っていくのかは大きな課題です。また、次世代技術のCCS技術(二酸化炭素隔離貯留技術Carbon dioxide Capture and Storage)を併設した火力発電も注目されています。
地層の中にCO2を分離・回収して貯め込む技術は非常に難しく、世界各地の実証プロジェクトでは様々な課題に直面しています。CCSのエネルギーロスは一般的に3割と言われ、燃料費で見た場合のコストは、CCS付火力のコストはCCSを伴わない場合に比べて1.5倍になるとみられています。また設備費については、アメリカの例を見る限りCCSを伴わない場合に比べて4倍くらいになり、依然ハードルは高いです。欧州では、CCSプロジェクトから撤退する企業も出ています。しかし、この分野をリードするアメリカは、今年4月、CCSプロジェクトにより1000万炭素換算トンのCO2を回収したと発表しました。回収・貯留したCO2排出量は、路上から年間200万台の乗用車を排除したことに相当します。日本では、2020年頃の実用化を目標に掲げて、研究開発を進めています。

―2030年電源構成について(再生可能エネルギー)
日本は高い技術力を有していますので、もう少し高い水準の目標を掲げられるポテンシャルはあると思っています。例えば、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が支援している「革新的太陽光発電技術研究開発」プロジェクトでは、2030年までに変換効率を現状の2倍、発電コスト7円/kWh達成という目標を掲げています。
一方、変動電源である太陽光発電や風力発電の系統連系問題、送電網増強等のコスト負担など、取り組むべき課題は少なくありません。
日本は再生可能エネルギー分野の技術は優れていますが、用途開発や施策、プレーヤーの育成が世界に遅れを取っています。しかし、遅れている分野だからこそ経済成長の可能性があると思います。今後は、意欲的な技術開発と用途拡大で経済成長につなげ、丁寧な制度設計により再生可能エネルギー市場をバランスよく安定的に成長させていくことが大事だと思います。

―日本の省エネ技術にまだ伸び代はありますか?
日本が先進国から遅れている分野は、住宅や建築物における断熱基準です。日本では、建物本体に燃費という概念はありませんが、建物の省エネにポテンシャルを感じます。実際、国土交通省は、2020年に向けて、新築の住宅に対して断熱基準の義務化(省エネ基準適合住宅)を課す動きが出ています。EUは補助金などで住宅の省エネ改修に積極的な支援策を打ち出しており、日本でも今年度は「省エネ住宅ポイント」が復活し、断熱材や窓などのエコリフォームを推進しています。また、「見える化」で建物の省エネを促す「エネルギーマネジメントシステム」も今後成長が期待できる分野です。それから、次世代自動車開発も燃費の改善に貢献しています。アメリカで販売される自動車には、日本と異なる自動車の燃費規制が適用されています。「CAFE:Corporate Average Fuel Economy=企業平均燃費」と呼ばれる燃費基準は、自動車メーカーが販売した車全体で平均燃費を算出し、それに規制をかけるものですが、2012年から16年にかけて毎年5%ずつ段階的に規制が強化され、自動車メーカーはより燃費の良い自動車のシェアを増やす必要に迫られています。そのため、EVや燃料電池自動車などゼロエミッション車(ZEV=Zero Emission Vehicle)が急速に普及しています。規制を強化することによって技術開発が加速しています。

―今後、注目するエネルギー源は
再生可能エネルギーの中でも、ベースロード電源に成り得る地熱発電に注目しています。日本は地熱資源量世界第3位のポテンシャルがあります。現状では、イニシャルコストが高く、開発期間が長いという課題があり、適地の多くが国立公園内にあるという問題もあります。規制緩和が進められていますが、開発には温泉事業者や地元の理解が不可欠ですので、じっくり地域との共存を図っていかなくてはなりません。地熱開発に限らず、エネルギー開発全般に言えることだと思いますが、世界の動きを見ながら、可能性を秘めた技術の研究開発は中長期的な視野で考え、続けていく必要があると思います、いったん止めてしまったら遅れを取り戻すのは後々困難になりますから。技術開発を継続する中で、ある時イノベーションが起こることがあると期待を抱いています。

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