日本エネルギー会議

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区域解除の疑問

福島第一原発の事故から5年4ヶ月。放射線量が最も高い地域に指定された帰還困難区域に関して政府の動きがあったが、その内容は疑問だらけだ。
政府は5年後の2021年をめどに徐々に帰還困難区域を解除するというが、今回はほんの一部であり大半はその後も区域指定されたままとなる。帰還困難区域の面積は337平方キロメートル。福島県が誇る猪苗代湖の約3倍。原発1基分の電力を生み出すためのソーラーパネルに必要な面積としてよく例にされる山手線の内側面積で例えれば5倍強の広さだ。ここには事故前、約9000世帯2万4000千人が暮らし、原発以外の産業もあった。5年以上たっても、これだけの土地がまったく使用出来ない状況であることは原発事故の被害の大きさを物語っている。

来年度から解除のための除染やインフラ整備が始まるが、具体的には大熊町の役場周辺、双葉町のJR双葉駅西側、富岡町の夜ノ森地区(ここは桜の名所であるとともに常磐線の夜の森駅がある)、浪江町の常磐道浪江インター周辺などに限られる。これらは全体の何割にも満たない面積で、そこを復興拠点とするというが、今後、徐々に全域を解除するのか、最後まで除染も解除もしない区域を残すのかがはっきりしない。除染には、今年度までに計約3兆円が計上されている。解除を全域に広げるには除染などにさらに巨額の金がかかる。

帰還困難区域は放射線量が事故後年間50ミリシーベルトを超え、立ち入りは原則禁止されているが、現状は自然な放射能の減衰により、帰還困難区域内の私の家の庭で毎時2マイクロシーベルト。ずっと外に居ても年間で17ミリシーベルト程度だ。普通に生活していれば、おそらくその半分程度であるはず。気分の問題はあるにしても、健康に影響があるレベルではない。だが、政府はいままでどおりバリケードを設置して自由な立ち入りは制限すると思われる。一部解除を期に、少なくとも住民のために従来の居住制限区域なみの規制緩和(宿泊は出来ないが、昼間なら許可なしに立ち入れる)に踏み切るべきだ。

帰還困難区域に住んでいた避難者は、大半が避難先などに家を新築したり、中古住宅を確保したりしている。帰還困難区域が解除されたとしても、それを売り払ってまで帰還するとは思えない。町営住宅などで暮らしていた高齢者や独身者は自治体が復興住宅などを建設すれば、条件次第では戻るかもしれない。国や自治体は解除後の帰還率を1割程度と低く見積もっているのではないか。それでも帰還困難区域をそのままにしていては、住民の反発が出そうなのでとりあえず一部を解除することとして、除染をしない腹を固めたのではないかと思う。昨年3月には当時復興相だった竹下亘氏が「帰還困難区域の全域を除染することはあり得ない。現実的ではない」と明言。政府内に同調する意見が広まったとの報道があったが、それが現実のものとなりそうだ。

一部解除となることで心配されるのは、住民の分断と仲違いだ。賠償は区域ごとに決められており、帰還困難区域では一部解除される地域と除染もしない区域で賠償は同水準だ。故郷を失ったということで最後に一律一人700万円の精神的損害賠償額の上乗せを支給されている。富岡町の例で考えれば解除される夜の森地区以外の地区の住民は、夜の森地区の住民が700万円を東電に返すか、自分たちにさらなる賠償の上乗せがなければ不公平だと言うはずだ。居住制限区域の住民には一人月10万円の精神的損害が解除後1年まで支払われることになっていて、それが今日まで伸びているため、いまや帰還困難区域の住民との賠償額の差はほとんどなくなっている。

中間貯蔵施設の建設が進まないために、除染で出た放射性廃棄物の入ったフレコンバッグを大量に帰還困難区域に仮置きされているうえに、これから夜の森地区など一部を解除するために除染をすれば、またもや仮置きのフレコンバッグが増えることになる。フレコンバッグの仮置きは自分たちに帰還を諦めさせるために積み上げているのかと思いたくなる。

「帰還困難区域の大半は除染せず、当分解除せず」の政府方針に対して、これを受け入れるかのような県や町村の姿勢は甚だ頼りにならないと思う住民が多いはず。8月に入ると、各地で町主催の住民説明会が予定されているが、おそらく紛糾することだろう。

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