日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

千年に一度の災害にどう向き合うか(1)

福島第一原発の事故原因について私が最も関心を持つことは、東電幹部が千年前に貞観地震による大津波があったという警告を原発の安全性との関連でどのように認識したかである。私も現役時代に、発電所に案内した一般の方から「大事故の確率が1万年に一度と説明をされたが、それが明日起きたらどうなのか」と質問されて回答に窮したことがある。千年に一度、大きな自然災害がありそうだということがわかった場合、原子力関係者は何をすればよいのか。福島第一原発の事故が起きてしまい、あらためてこの問題に正面から取り組まなければならないと思う。

従来、多くの原発関係者の主張は「事故が大事故にならないように何重にも防護措置がつくられている。大事故の発生確率は十分に低い。事故が起きたらその過程を分析し原因を突き止め、対策を追加していけばよい」であった。日本では原発数十基を数十年運転した結果、福島第一原発の事故が起きた。これ以降、大事故が起きなければ大事故発生確率は十分に低いという考えを変える必要はない。さらに追加の対策も実施するので、再び大事故が起きる確率は、より低くなっている。今ある原発を直ちに停止せよというのは、科学的かつ合理的な考えではない。原発推進の立場の人たちの多くは、そのように考えているのではないか。
 
こうした考えに何か問題がないかを今一度点検し、整理してみよう。
1.
大事故の発生確率が十分に低いと言っているが、それは何を基準にしての話か。数十年前にはラスムッセン報告によって自動車事故や航空機事故より発生確率が低いとしていたが、それに対する科学的批判が出るとともに、スリーマイル島やチェルノブイリ、そして福島第一原発と事故が起き、原発の大事故発生確率は十分に小さいと言い続けられるものなのか。
2.
事故が大事故にならないよう何重にも防護措置があるというが、一定の条件の下で機能するのであり、福島第一原発の事故ではその条件がいつも必ず揃うとは限らないことが判明した。また、防護をさらに積み重ねることは技術的には可能かもしれないが経済的には容易ではない。
3.
自然災害が引き金になって起きる原発事故は、自然災害の発生確率に依存する。どの程度の大きさの自然災害までありうるかは過去1000年間に起きた自然災害の記録によってしか知りえない。記録が無いものもある。さらに地質などの研究によって数億年前まで遡れる可能性があるが、調べられるエリアと時代は全体のごくわずかな部分である。日本における活断層も部分的にしか判明していない。また、自然災害の内容も多種多様であり想定が難しい。
4.
実際の大事故の結果からの追加工事もその事故でわかった範囲が中心であり、それ以外の要素については対策が十分とは言えない状態が続く。追加対策で大事故発生確率が低くなるとしてもまだ多くの不安が残される。
5.
テロによっても原発事故は起こりうる。現実はテロ国家さえ存在する。対策を講じたとしても、手口はますます巧妙になり、イタチごっことなる。自然災害に乗じたテロも考えられる。
6.
ひとつのサイトに複数の原発を建設した場合、1基で起きた事故が他の原発の事故を誘発し大事故になる。これは福島第一原発の事故で実際に 起きた。これは大事故の発生確率を押し上げる。今回の福島第一原発の事故を4基の大事故とした場合は、発生確率はかなり高くなる。
7.
原発は建設時期、設計型式、周囲の地理的条件、運転条件、運転員の資質・訓練度合い、本社を含めた事故対応能力により大事故の発生確率が違ってくるはずで、大事故発生確率は一律ではない。
8.
大事故の定義が不明だ。原発は敷地外に放射能を出す大事故となればその被害は甚大であり、単純に自動車事故との比較は成立しない。国が滅亡するほどの大事故が起きる可能性があれば、大事故はあってはならないことであり、大事故発生確率で考えること自体間違っているのではないか。
9.
被害について関連死もあり、直接の死者の数だけでは判断出来ない。社会的な影響についてもどこまで考えるか難しい。被害としてどこまで想定するのか。賠償についても対象や賠償額の決め方により大きく変わってくる。金額に換算することが困難なものもある。

「大事故の発生確率は低い」「何重にも防護している」「自然災害の頻度や規模は上限がある」などと考えては、一般の人を説得することは難しそうだ。原発関係者の利益のために原発推進を正当化しているのではないかという疑問も一般の人に起きやすい。「千年に一度の災害にどう向き合うか」を検討する際の視野を拡げるために、視点をもう一段上げる必要がある。

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康