日本エネルギー会議

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想定外とは何か

原子力規制委員会の田中委員長は先月18日の記者会見で、「熊本地震がどういう進展をするかについて不確実性があるということは承知していますが、その範囲でどういう状況が起こっても、いまの川内原発については、想定外の事故が起こるというふうには判断していません」と述べ、科学的根拠がなければ、国民や政治家が止めてほしいと言っても、そうするつもりはないとした。

言葉通り解釈すれば、地震に不確実性があることは認めるが、例え不確実な部分が顕在化しても、川内原発では想定外の事故は起きないということだ。想定外の事故とは福島第一原発のような過酷事故のことを指しているようだ。田中委員長は科学的根拠がなければ自分は納得しないと言っているが、想定外の事故は起きないと断言するには、それこそ科学的根拠を示してもらわねばならない。昨年あたり盛んに「安全とは言えない」と繰り返していたことからすると、今度は一転して自信の塊のようで一貫性が感じられないのは問題だ。

想定外についても、田中委員長は「(我々は)想定内で判断している。想定外と言ってはいけないと肝に銘じて我々も規制している」と述べている。そのことからすれば、委員長は想定外という領域があってはならないと考えているようだ。そうだとすれば、先ほどの「想定外の事故が起こるというふうには判断していません」という言葉が出た理由が解る。田中委員長はどんなことが起きようとも、すべてお見通しだと言いたいのだろうが、それは傲慢すぎる。

事故後に想定外と申し開きするのは大概の場合、そこまで考えたり想像したりする能力が欠けていたという証だ。起こるだろうと予想して準備していた事実が想定内。予想はしていたが準備を怠っていたならば、それも想定外だろう。想定外をいままで経験したことがない状況と説明する人もいるがそれは違う。

さらに、想定外は自分だけのものではなく、共有化された想定でなくてはならない。福島第一原発の事故の前は、過酷事故は起きないとした想定が国や東京電力の関係者で共有化されていた。みんなで渡れば怖くない。当時、個人で勝手な想定をすることは組織内では許されなかったのだろう。田中原子力規制委員長、電力会社、再稼働に反対する人たちの議論が噛み合わないのは想定外の内容がそれぞれ異なるからだ。

「そこまで心配していたら、原子炉の設計など出来ない」とは、班目原子力安全委員長の言葉だ。自然現象のブレをどこまで考慮するか、ヒューマンエラーやテロをどこまで見込むか。それぞれは自分の都合や想いでさまざまな仮定を示すが不明な点が多すぎて、議論は進まず誰もが納得する結論は得られない。 

従来、現場の安全で用いられてきたのが安全率、安全係数の考え方だ。クレーンに使用するワイヤーロープは6、人を運ぶエレベーターは10となっている。ワイヤーロープの製品としての性能のバラツキ、使用中の手入れのバラツキ、使用する環境のバラツキなどについて最も悪い状態でもワイヤーロープが切れて事故が起きないためだ。(安全率があるからと無謀な使い方をしてはいけないことは当然だが)福島第一原発の事故でも格納容器の圧力は設計よりかなり高い圧力でも持ちこたえた。これは設計や製作にあたっての安全率を採用したからだろう。今後はこれらを裸にして個々の安全率と全体の安全率を決めて、自然現象などのブレに対応していくことが良いのではないか。今後、大事故が再発したらその安全率を高くする以外にない。

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