日本エネルギー会議

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巨大組織は何故大事故を起こすのか(18)

このシリーズも今回から対策編となる。
本シリーズ第1回で、国会事故調の黒川委員長が福島第一原発事故を「日本型災害」としたことに対して、海外メディアが「福島で起きた惨事を文化がもたらした災厄と結論づけているが、責任を日本の集団主義に帰するのは責任逃れ」「福島の事故を文化的な文脈で説明しようとするのは危険」「文化のカーテンの陰に隠れる国会福島報告書」と批判したことを書いた。

福島第一原発の事故に関して判断を誤った組織の体質を論ずる場合、欧米メディアの言うように日本文化論にしてしまうと対象が拡散しすぎ責任もあやふやになる。抽象論ではなく具体的に、実践的に考える必要がある。  

シリーズ第2回から第17回まで、判断を誤らせる原因がいかに巨大組織の中で育ち、放逐されることなく受け継がれてきたか、具体的にその萌芽と環境条件や判断を誤らせるに至るまでのメカニズムを洗い出してきた。その対策を考えるにあたっては実効性のあるもの、永続性のあるものにこだわりたい。   
対策は外部からの規制強化だけでなく、内部の自主規制も併せて考えるとともに、その一環としての情報公開も含めたい。また、従来の不祥事対策、事故再発防止策の効果が薄かったことから、従来の対策の繰り返しとならないよう新しい発想を心がけた。

今回、シリーズ第2回から第17回に沿って問題点を振り返りながら、そこから対策を考えてみることにする。
第2回は副題を「ファウスト的契約」として黎明期の関係者が原子力のメリットだけを見て開発に前のめりになるのではなく、原子力には潜在的に危険性があるので慎重な上にも慎重な姿勢であるべきで、また外部の批判に耳を傾けながら進めるべきという定見を持っていたが、それが現世代の指導者をはじめとする関係者に十分伝えられなかったことを書いた。原子力の平和利用は人類への恩恵が大きいものだが、一歩間違えれば怖いもの、大きな潜在的リスクを持っているということをよく認識して、幹部は組織づくりや組織運営に当たらなければならない。湯川博士など先人の考え方をまとめた資料を作成して幹部教育において集団討議をすることなどが必要だ。

巨大組織は一般的に大企業病に罹りがちだが、原子力を扱うのであれば組織内にひとつの雰囲気、不文律をつくりだしておくことが必要となる。まずやらねばならないのは、採用後の新入社員教育、それに続く教育の各段階においてあらためて原子力に携わる者の心得をしっかり教えることだ。

今回の福島第一原発の事故の結果、被ばくによって亡くなったり病気になったりした人はいない。(最近の福島第一原発廃炉現場での労災認定は労働者救済の精神で作られた法律によって認定したもの)自民党の幹部が「誰も死んでいない」と発言したことでバッシングを受け発言撤回に追い込まれたが、そのこと自体、原子力に対して人々が強い生理的拒絶反応を持っていることを表している。したがって被ばくや汚染を伴う事故は原子力事業にとって、事業を継続できなくなる、あるいは長期にわたって影響する事実がある。そのこともしっかり教える必要がある。そんなことは従来からやっている、当たり前のことだと言う人もいるかもしれないが、実際にはそれらは自明のこととして時間を取らなかった。当たり前と言う人は言うほどのことをやっていないし、意識も希薄である。

放射能漏れや過剰被ばくを起こしたにより消滅した電力会社あるいは電力会社の子会社はいままでにない。データ捏造という不祥事で一社(日本原電の子会社であった原電工事(株))が解散になっただけである。そのほかに解散となったのは臨界事故を起こした燃料加工会社のJCOだけだ。内輪に甘い業界、外からは護られた会社であると言わざるを得ない。あってはならないとしている放射能漏れや過剰被ばくなど事故の原因追求、責任追求、処分に関する組織内の扱いをもっと厳格にすべきだ。

福島第一原発の事故を起こした東京電力では、事故後今日まで社内各部署、各地方から社員を集めて被災地の福島でボランティア活動をさせているが、他の電力会社やメーカーなども福島第一原発の現地を見聞させる研修を義務化すべきだ。福島第一原発のある大熊町双葉町に東日本大震災と原発事故のアーカイブ施設が建設されることが決まった。それらの施設視察を関係者は教育計画の中に組み入れるとよい。時が経過し、福島第一原発の事故の経験者が減ることに反比例してこのような教育の重要性が増すことになる。原子力学会など関係学会や業界の作っている諸団体は、原子力に携わる者の倫理についての研究会、討論会などを継続的に開くべきである。

反対派にはイデオロギーとして反対している人もいるため、原子力の関係者は反対派に対してこれを無視することを続けてきたが、原産会議の創立者の一人、橋本清之助がいみじくも言ったように「反対派の言うことに耳を傾けてそれが実現するように努力する」ことが特に原子力界のリーダーたちに求められる。耳障りなことは聞かない。金の匂いを嗅いで擦り寄ってくる人とだけ付き合うではだめだ。電力会社のトップは普段、原子力に対する理解や支持をもらうためマスコミのトップとは懇談しているが、第一線の記者や反対派、あるいは一般の人たちとやるべきである。  
(つづく)

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