日本エネルギー会議

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究極の対策

大型マンションの建設で基礎部分の欠陥が明らかになり、その原因が専門業者の手抜き工事であることが発覚した。このマンションは大手のディベロッパー、大手の建設会社により建設されたが、この事件に建設業界が抱え続けてきた問題が集約されている。原子炉メーカーやゼネコンが行っている原発の建設やメンテナンスに関しても構造的に同じことが言える。私も現役時代に3000人を超す原発の建設現場や定期検査工事で、構造的問題を感じたものだ。

利益を確保するためにぎりぎりの工程と予算と人員で行われる建設現場では、多層構造の末端に猛烈なプレッシャーがかかる。すべての部分が100パーセント、基準や仕様を満たすことは現実には考えにくい。工事の対象が自然界である場合はなおさら不確定要素がある。事実完成後の手直しも多い。しかし、基礎杭のような建築物にとって致命的な部分で手抜き工事があり、そのことが工事の途中で見つけられなかったことは重大だ。

不正をした本人とそれを監督した人に関しても疑問がある。杭を打った下請けの担当者はベテランであるというが、もしデータ改ざんが竣工後に発覚したらどれほど大変なことになるか本人が知らないわけがない。それにもかかわらず複数の杭で不正が行われたのは何故か。上司や元請けの監理員の現場確認は現実問題として全部やるわけにはいかないが、基礎杭のような重要ポイントでは必ず行われなくてはならず、それを書類で済ましたのは何故か。

連日ワイドショーに登場する専門家はありきたりのコメントしか言わないが、この問題に対しては工事現場やモノづくりの歴史をしっかり学んで究極の対策をするべきだ。中世から土建業の世界では、手抜きをすれば必ず結果に出る。「天網恢恢、疎にして漏らさず」。もう一つは、「最後はやっている本人次第」ということが当たり前になっている。こうした「原理原則」、「世の中のことわり」を職人と呼ばれ、棟梁と呼ばれた人々は正しく理解しており、職人とは「間違ったことはしない」「自分自身を偽らない」であり、一人前の職人である条件としていた。そうでないものは職人として扱わないという原則を貫いていた。

新入りに技術技能を教えるとともに、そうした暗黙の了解をいかなるときにも忘れないように鍛え上げ、その人間の気質として定着させる。その手段は主に一刻たりとも休みのないOJTだった。その方針に反したり、抵抗する者も出たが、彼らは職人集団から容赦なく追放された。その気質は宮大工などにかろうじて引き継がれ、私も原子炉メーカーの大工場などで微かに感じたことがあった。外国にもマイスターの存在やプロフェショナリズムの伝統があることはご承知の通りである。

現代の資格制度や検査制度の最大の欠点は、技術技能面に重点が置かれ、気質や人間性などは古臭いこと、封建社会の残渣として問題にしないことだ。若い人を精神面で鍛え上げ、頑固な職人気質を持たせる、集団としてそのような気質を大切にするようにするには、現代の社会ではなかなか困難な面もあるが、私はそのことしか、今回のような手抜き工事を防ぐ方法はないと思う。

なんでもルールとシステムで縛る現代に、このような提言するのは時代錯誤のアナクロニズムだと言われるかもしれないが、中世から近世へと時代をくぐり抜け世界に冠たる建造物を残してきた日本の職人集団の人の育て方や禅寺の修行のやり方はやはり優れたものだ。精神論ですべてを片付けることはやるべきではないが、何度も繰り返される手抜き工事の問題を解決するには、作業者や監督者の精神性、生きがいの領域にまで踏み込む必要がある。今回の事件を受けて国の有識者会議や業界がどのような対策を打ち出すか注目したい。

原発に関して言えば、福島第一原発のような事故を起こした原因は、関係者が「原子力に従事する者として住民が避難しなくてはならないような事故は決して起こしてはならない」という片時も忘れてはいけないことを忘れたということだ。まだ事故から4年半なのでさすがに業界内部の余熱(ほとぼり)は醒めてはいないだろうが、今後はどうだろう。

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