日本エネルギー会議

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巨大組織は何故大事故を起こすのか(14)

限界がある内部の監視機能

巨大組織が大事故を起こさないよう、組織内あるいは組織外の監視役は大事故の要因や大事故につながる問題点をあらかじめ取り除くことが出来るのだろうか。電力会社の場合、まず組織内の監視役としては、監査部門(監査室、考査部など)、監査役、主任技術者があり、時には特別委員会などが設けられる。労働組合もある意味で監視役である。現時点で組織内の監視役が大事故の防止に役立つと思えない理由は次のとおりだ。

(1)
監査部門、監査役のミッションは、取締役や各部門の社員の職務執行を監査することで、具体的には業務監査と会計監査だ。業務監査は職務執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査するので、法令違反や定款違反をしていなければたとえ大事故につながる問題があっても看過されやすい。取締役などの職務には善管注意義務も含まれるので、経営判断にかかわる事項についても、不当な点がないかどうかを監査出来るが、それが大事故につながると指摘出来る可能性は低い。(福島第一原発の事故の場合も、監査部門や監査役から過酷事故対策を強化するような指摘はなかった)

(2)
監査業務の半分は会計監査であり、業務監査ばかりやっているわけではない。電力会社の場合、対象とする業務は発電、送配電、営業、子会社など幅広く原発の安全性に関しての監査はごく一部に過ぎない。監査対象はこれから起きることではなく過去の実績であり、法令や社内規定に違反しなかったかを中心に監査を行っている。法令や社内規定が大事故防止の点で不十分であれば、監査によって大事故は防ぐことは出来ない。法律上、監査役はその任務を怠った時、それで生じた損害を会社に賠償する責任を負っているが、大事故や不祥事が起きても監査役が責任を追求された例は聞いたことがない。

(3)
監査部門の社員や監査役は会社と雇用契約を結び、社長からその職を任じられ給与や報酬を受けている。本来であれば組織そのものを破綻から守る役割であり、社長等役員に対して直言すべき立場であるが、自分を任命してくれた社長(ラインの最終的な長)の意思を慮る意識が強い。我が国特有の形式主義の典型例だ。実態としては、むしろ代表権を持たない相談役や顧問の方が社長に対しての影響力が強い。

(4)
巨大組織の中では監査役の人数、監査部門の人数はあまりにも少ない。定期的な監査を行うことで手一杯。各部門の業務執行状況に関して聞き取りも出来ることになっているが問題が表面化した場合に行われる程度だ。監査にあたっては現場の協力を得るために、「現場が良くなることが目的」という理由の下に報告書の内容をあらかじめ示し、これでよいかと現場に確認をすることがしばしば行われる。 監査役には各部門の生の情報がいち早く届くようなことはなく、企画、経理、資材などの方が業務執行の必要性から比較的早い段階で情報が届く。ちなみに広報部門にも肝心な情報はなかなか来ない、

(5)原子炉主任技術者
原子炉主任技術者は原子力規制委員会が主管する国家資格で、原子炉等規制法に基づき、原子炉設置者(電力会社のこと)の行う原子炉の運転に関して保安の監督を行うことになっている。いわば、規制当局になりかわって現場で原子炉の安全を監視する役割だ。この資格は取得が難しく、大学で原子炉物理や原子力工学を学んだ人以外は、会社が受験を目的とした特別の研修コースに参加させることが通例だ。
実際、各原発では原子炉毎に原子炉主任技術者を副所長、次長クラスで資格を持っている人の中から選任し規制当局に届けている。所長に次ぐ職位の所員を任命しているのは強い権限を裏付けるためだ。だが、どの原発でも原子炉主任技術者に選任された人は副所長、次長としてライン業務を兼任しているため多忙であり、主任技術者に課せられている多くの業務を果たしきれないという悩みを抱えている。特に定期検査中は現場確認のための立ち会いや説明を聞いて書類に印鑑を押すことに追いまくられている。
ラインの長としても日常から原発運営の一端を任されており、立場上もこれと切り離して原発の過酷事故防止のために所長や本店幹部に進言したり、提案したりする役割は十分に果たせないのが実情だ。福島第一原発の事故では発電所長がクローズアップされ、原子炉主任技術者はメディアに登場することはなかったが、当の本人はメルトダウンした原子炉を見て忸怩たる思いだったに違いない。
 
(6) 労働組合
原発の過酷事故により会社が存立の危機に陥れば、それは雇用や労働条件の維持を脅かすことになる。しかし、電力会社の労働組合は長い歴史を経て、経営側とは労使協調のモデルとも言える蜜月関係を築いており、原発推進についても労使で手分けをして反対勢力に抗してきた。放射線下労働の条件や健康管理については会社側と渡り合うものの、原発そのものについては十分に安全なものとしてきた。近年、不祥事などの後に各社には内部告発制度が設けられたが、労働組合は子会社や協力会社を含め内部の苦情、不満を吸収し、問題が外に出ないよう囲いこむ役割を果たしてきた。

(7)
特別委員会は、大事故、不祥事などが起きた後に社内に設置される。これは第三者的な立場から、あるいは専門的な立場から原因や責任の追求、再発防止などをするのが目的だが、規制当局、株主、消費者、メディアからの企業に対する攻撃を止めるための防御策にもなっている。
実際に選任された委員長以下の委員の顔ぶれを見ると、企業の役員や特定の部門との繋がりが強い弁護士、大学教授、学識経験者がほとんどである。原発関係で言えば、概ね原発推進、原発容認の考えの人々であり、本当の意味での第三者でないことが多い。さらにこれらの委員会は報告書を社長宛に出せば終了し、改善策の具体化や監視活動は当該企業に委ねられるのが通例だ。
東日本大震災が起きるまで、津波による過酷事故を防止することを提言出来た可能性は、電力会社側からそのような命題でも出さない限りなかった。

福島第一原発の事故以前、電力会社という巨大組織に対する監視役は組織内部と組織外部に存在したが、どちらも原発の過酷事故防止に関して、その役割を果たせるものではなかった。次回は外部にいる監視役の機能について。

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