日本エネルギー会議

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適正規模

産業革命以降、科学技術を活用したシステムはいずれも巨大化した。その理由は企業間あるいは国家間での競争に打ち勝つための経済性向上にある。システムを大型化しアウトプットを増大することで、単位あたりのコストが下がり、競争力を高めていった。近代はあらゆる面で規模の利益を追求した時代であり、良い例として外国との交易に使う船舶の大型化の歴史がある。

行き過ぎた巨大化はデメリットも発生するため、どこまでも巨大化することはない。旅客機はジャンボまで行ったがその後戻った。基本設計が古く多少の改良では燃費を含めた運用コストが高くついたからだ。背景には原油価格の高騰による燃費重視がある。エンジンの進歩で2台のエンジンでも長距離が可能となり、これまた整備の手間や費用が削減された。これも経済的理由だ。船舶でもあまりの巨大化は港湾施設が伴わずどこにでも寄港出来なくなるし、それほどの積荷がない航海もある。

システムが巨大化し過ぎると管制が難しくなり、安全面で問題が生じる。超高層ビルは映画「タワーリングインフェルノ」のごとく、経済性とともに万一の際のリスクが高まる。9.11の思いもよらないテロ攻撃で世界貿易センタービルの現場は惨状と化した。今後起こりうる自然災害、人為的な災害に対して地下鉄の深さや地下街の拡大も歯止めがあって然るべきだ。最高速度300キロの高速鉄道にはそれに見合うだけの強力なブレーキと自然災害対策を必要とする。それにあまりコストがかかりすぎるようであれば、実用的ではなくなる。

原発の場合はどうか。日本初の発電用原子炉である日本原子力研究所の動力炉は4.5万キロワット。また初の商業用原発の東海原発は16万キロワットであり、初の軽水炉の敦賀原発は35.7万キロワットだったが、その後巨大化し建設中の大間原発では138.3万キロワットとなっている。軽水炉は巨大化しても設備の基本的な仕組みは変わらず、運転員数もメンテナンスの人員もあまり変わらない。大間原発の出力は実に敦賀原発の4倍。発電コストは確実に下がるはずだ。

原発の巨大化には死角はないのか。また、巨大化に限度はあるのか。近年、欧米では新規の原発に関して過酷事故対策のための装置が加わり、かなり経済性を低下させている。また、既存の原発に対しても福島第一原発の事故以降の日本の状況を見ればわかるように多額の追加投資を必要としている。逆に考えれば、これまでの原発の建設費や発電コストが安全対策費を安く見積もったものであったということにもなる。このことは今後建設する原発はますます巨大化しなくては経済的に見合わないということだ。

原発の巨大化は違った観点からもネックがある。100万キロワットの原発をベースロード電源とした場合、小さな都市では供給量を使い切れないため大消費地である大都会に送電して消費しなくてはならない。そのための変電設備、送電設備を建設・維持するためのコストがかかってくる。また長距離を送電することによる電力のロスも発生する。  

このようなことから経済性を考えれば、原発はなるべく消費地に近い場所に建設することが有利だ。一方、原発は万一の過酷事故を考えてなるべく人口密度の低い場所、それに地震対策や冷却のために地盤の強固な海岸線に建設するべきである。この矛盾を克服するためにも、原発を巨大化しなければならなくなる。

原発の運用に当たっては、ほぼ1年に一度は停止して燃料交換、設備点検・修理をする必要がある。事故やトラブルがある確率で起きるが、その際は送電が止まる。消費地で停電を起こさないためには、すぐに立ち上がる別の電源を常に準備して置く必要がある。また、電力の緊急融通を受けるための他地域からの系統を維持管理しておかなければならない。

フランスのように原発の負荷追従運転をしない限り、巨大な原発を稼働し続ければ、需要が少ない時間帯に原発以外の電源を停止させる必要がある。あまりその停止期間が長ければそれらの電源の経済性を奪うことになる。そのことで原発を巨大化する経済的メリットが失われるのでは意味がない。需要が少ない時間帯に巨大原発からの電力を貯蔵する方法は、いまのところ揚水式水力発電所か大規模蓄電池しかない。この建設費や維持管理費があまりにかかるようでは同じく原発の巨大化による経済的メリットが失われることになる。

出力150万キロワットを超えるような巨大な原発はその主要機器である原子炉圧力容器やタービン発電機の製作上の制限がある。現存する規模の工場では130万キロワット級までしか製作出来ないのだ。そのために新たに大型工場を建設し製作技術を開発するには相当量の建設需要がなくてはならず、世界中の需要をそこに集中する必要があるが、それは現実的ではない。

現在の原発の最大規模は130万キロワット級であるが、安全対策、需給状況、送電設備、機器の製作工場などを考えると、これ以上原発を巨大化出来る可能性は少ない。それは原発の経済性向上が限界に近づいていることを意味している。

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