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巨大組織は何故大事故を起こすのか(13)

巨大組織における物事の決まり方

巨大組織では、稟議書、常務会、取締役会、株主総会など決裁・議決の機会があるが、大事なことはこの手続きに表と裏があるということだ。裏というのは、部長など起案者、提案者によって、会のメンバーにいわゆる「根回し」が行われ、実際の稟議持ち回りや取締役会など表の場は、自由に討議をするところではなくなっていることだ。質問なども与党の国会質問のように議案に対する賛成演説、あるいは補足説明を引き出すものとなり、反対意見は出ないのが普通である。監査役などの発言も少なく、あっても「念のため」と断ったうえでの発言が多い。

その根回しは通常、取締役、常務、副社長、社長と順を追ってされるが、場合によっては担当常務立ち会いの元でいきなり社長に行われる場合もある。そうなると副社長以下は「社長はこれについて了解されています」「これは社長の直接の指示で」というセリフを聞かされて「そうか、わかった」としか言いようがなくなる。「では、自分が社長に反対意見を申し上げよう」と言う役員はまずいない。社長が実質的に役員に関する人事権を持っていることの影響だ。 

了解するのが社長でなく会長、相談役、顧問になる場合もある。こうなると社長でない者が実権を握ってしまい、社長は権力者の政策を遂行する役割でしかなくなる。そのことは外部もわかっていて、政治家、高級官僚、自治体の首長、地元の有力者、メーカーのトップなどは、しきりに将来会長や相談役などになる人材を見極めて、その人とのパイプを太くすることに努めるものだ。

役員会はボードメンバーによって構成され、本来は各業務執行部門とは切り離して全社的観点から物事を判断する存在だが、電力会社では役員が○○担当という肩書きのついた辞令をもらって各部門の利益を代表する形をとっているところが多い。例えば、「常務取締役原子力本部長」という形だ。会議では各部門の部長が提案説明をするが、それを庇護するのが担当常務あるいは担当取締役だ。これに対して他の役員は自分の専門外であることもあり、また別の会議では自分が逆の立場になるため、あからさまな異議を申し立てることはない。また、厳しい質問なども控える傾向がある。それに既に根回し段階で物事は決着しているのだ。起案部門に言わせれば、根回しの時点で意見を言えということになる。とはいえ、起案する部門はあらゆる質問に答えられるように想定質問をつくり、さまざまな資料を準備することは言うまでもない。

次に、巨大組織は例外なしに中長期計画、それを各年度に落とし込んだ年度計画によって事業が運営されている。それにともなって事業予算も全体予算とそれを各年度に分けた年度予算として決定される。その執行について諮る場合は比較的スムースである。既に事業計画、年度予算の攻防で決着がついており、環境変化のみが問題となるからだ。しかし中長期計画、各年度計画、年度予算に載っていない事業を起案した場合はそれなりの理由を説明しなくてはならずやっかいだ。提案理由は現場の事故、法律の変更、監督官庁の行政指導、地方自治体や住民の要望、他社と横並びの必要性など。
実際のところ、計画外・予算外のハードルはかなり高いので、提案あるいは実施の「来年度まで先延ばし」「別の方法の検討」「様子見」「準備だけを予備費でやる」などの選択肢を担当部門が選択する可能性も高い。組織にとって大事な懸案でも、担当役員には話はするが、担当部門で温め続けて根拠を収集し、根回しが終わるまで役員会の議案にも上がらないものもある。

計画外は現場に大きな負担が発生することも悩ましい問題だ。逆に現場から直ぐに実施を迫られて本社の管理部門が苦しむ場合もある。電力会社ではもともと保守的体質であり、前例主義である。また、地域独占・総括原価方式などの権益を守ることがあらゆることの前提となっているため、チャレンジングなものは警戒される傾向がある。東京電力のようなリーダー的な存在であれば、他電力、大手の需要家、国政あるいは地方の行政に対する影響も慎重に検討される。

物事を決める際にこのように特徴をもった巨大組織に、降って沸いたような「千年に一度の大地震と大津波が原発を襲う可能性」の警告が外部から寄せられ、社内で試算した結果、重要施設が水没するような高さの津波に襲われる可能性があるとわかっても、それを対策計画案までに作り上げ、最高権限者以下に根回しをすることが、すぐに出来たとは思えない。

原発の過酷事故は起こしてはいけない、起こせばすべてが終わってしまう。その確率は低くても近々起きるかもしれないが、その時期は予測不可能という状況で、担当部門の誰かが奮闘することで果たして議案となったか、なったとしても社内でまともに議論が行われるかは疑問である。
そのような場合でも、即刻対策を起案し役員会での議論を経て計画外、予算外の事業としてすぐに実施に向けて決断をし、第一歩が踏み出せるような組織であれば、それこそ安全文化レベルが高い組織と言うことが出来るのではないか。

次回は今回の内容にも関連することだが、巨大組織においては監視役がいかに機能しないかについて。 

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