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巨大組織は何故大事故を起こすのか(12)

巨大組織におけるトップの選び方と経営判断への影響

巨大組織における経営トップの選び方は、組織の経営に大きな影響を与える。電力会社、原子炉メーカーにおいて社長はすべてプロパー役員の中から選出される。副社長が社長に上がる場合もあるが、副社長がいろいろな理由で社長まで到達しない人材の最終ポストとなっていることもあって、常務から社長になるケースも多々ある。(原電のような関連組織の場合は、大株主の電力会社である東京電力か関西電力が副社長あるいは常務クラスを原電の社長として送ってくるため、プロパー社員の最高位は副社長である。電源開発でもかつては監督官庁の天下り官僚が社長になっていたが、近年はプロパー役員より社長が選出されている)

多くの場合、旧社長がそのまま新会長職に就き、旧会長は相談役になることが慣例となっている。相談役はそののち特別顧問などに就任することになっている。電力会社の場合、外部の要職に就くか健康状態に問題のない限り、これまで同様に運転手付きの社有車や専属のハイヤーで出社し、役員の個室で1日を過ごすのが通例となっている。

電力会社の役員の個室はスペース的には他の大企業に比べ手狭である。デスクに応接セットをおくともう一杯である。電力会社では歴代社長が部屋を陣取るので役員室が入る階は満員状態である。余談になるが、県の知事室は電力会社の社長室からすると驚くほどの広さである。最上階の見晴らしの良い場所で、ある県では建物自体が昔のお城のお堀の中にありまるで殿様だ。

社内における最高権限者である社長を選任するのは正式には取締役会であり、その後に株主総会議案となる。しかし、実際には次期社長は現社長が指名する場合がほとんどあり、取締役会や株主総会は形式的なものとなっていわば対外的な発表の場になっている。電力会社には株主、社員、消費者、地元といったステークホルダーが存在するなかで、社内だけで社長を決めて良いものか。さらに社長が次期社長を指名することは会社の私物化ではないかとの疑問も起きてくる。

電力会社の場合、社長が次期社長候補としての条件をどのように考えるのか。
巨大組織を守って行ける管理能力が優れていること、社内の人特に部長クラス、取締役に信頼があること、これまでに社業への貢献が著しいものがあること、これからの大きな課題に関しての知識や経験があることなどが基本条件だが、そのほかにも大事な条件がある。それは従来の会長、社長が採ってきた方針を継続してくれること、自分を含め自分の部下であった役員などを今後もきちんと処遇してくれることだ。これを歴代社長がやると世代が代わっても従来の経営方針を頑なに変えない組織が実現する。社長が会長、相談役、顧問になっても、いつまでも実質的な経営権を握っているとおなじことになる。

電力会社にこのような社長選出方法が定着したのは、電力会社が地域独占による超安定企業であるからだとも考えられる。巨大化し安定すれば自ずと保守的になり、経営判断は慎重になる。先輩から引き継いだものを大切に、失点を最小限にするよう心がける。安定性を最も大事にする企業では、先に示したような条件で次期社長を選ぶことになる。

電力会社を取り巻く外部環境が大きく変化した時代などにおいては何代かに一人、中興の祖と呼ばれるような傑出した社長が出るが、その人が社長でなくなっても長く院政を敷くことになる。電力の鬼といわれ、電力国有化に真っ向から反対して今の旧電力体制を確立した松永安左衛門は「原発などを安易に導入すればやけどをする」と考えていたが、後の東京電力社長、木川田一隆は確固とした経営哲学を持つ人物で将来の中核となる電源として原発導入を決めた。 

軍の飛行場跡地であり、その後大手不動産会社が所有していた福島第一原発の敷地を東京電力が確保したのは木川田社長の時である。その後、それを引き継いだ社長がその路線を拡大することに努めたのは言うまでもない。その後、荒木浩社長になって東京電力があまりにも役所的で一般の民間企業と違う風土であることに危機感を持ち、原子力部門に対しても従来路線を踏襲しつつもコストにシビアさを要求するなど大きな改革を行った。荒木浩社長(現顧問)もその存在が歴代社長の中で光る一人だ。

選ばれる社長のバックグラウンドは時代によって変化する。電力会社の場合、事務系技術系問わず多くは企画畑であったが、その理由は料金許認可など国との関係や他電力との関係が重要だったからである。その後総務畑に移ったがそれは電力会社が公害問題や発電所の立地問題で国や自治体などの政治との関係を深めたことを意味する。東京電力ではさらに資材畑出身の社長が出るが、それは「経営合理化」の掛け声がかかったからである。

こうしたトップの選び方が何をもたらすのか。それは経営方針の継続性であり、社内風土の引き継ぎである。この傾向は伝統的な巨大組織にしばしば見られることだが、特に電力会社では共通したものだ。原発関連で言えば、国や地元を納得させるための耐震性の向上、挫折しそうな使用済み燃料再処理事業を支えること、プルサーマル計画によるプルトニウム減らしなど、たとえ負の遺産であったとしても大きな方向転換は出来ない。前任者の失策ややり残した仕事をなんとか破綻させずに持ち越すことなどが、今後を任された新社長のやることだ。自分を選んでくれた先代社長をはじめ先輩役員が期待をかけて見守っている。彼らを心配させず、その期待に応えることを一番に考えなくてはならない。

当時の東京電力社長は前任者から福島第一原発の津波に対する立地の高さの問題や機器配置の設計上の欠陥については申し送りがされていなかったようだが、同じ本社ビルにほとんど毎日出社している会長、相談役、顧問には大津波の試算に関する情報を上げ、対策先送りの了解を得たりしていたとしても不思議ではない。だが、これはあくまでも推測である。

巨大組織に潜む大事故につながる要因を次回以降さらに探って行くが、その目的は巨大組織の中に自ずと発生する危険な芽を摘むための制度や慣習をいかに組織にビルトインするかのヒントを得るためである。これについてはこのシリーズの最後の部分に提案として書く予定である。

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