日本エネルギー会議

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巨大組織は何故大事故を起こすのか(1)

福島第一原発の事故の原因は設計や立地の誤りもさることながら、東京電力が地震や津波の研究者の警告を聞き入れず、やれば出来た対策(非常用電源の増強など)を先送りしてしまった判断ミスだ。(日本原電の東海第二の場合、原電は首脳陣の判断のもと最小限の対策を施し危ういところで助かった)。いつ来るかわからないものに対してどうするかという問題に直面した東京電力の首脳陣は15メートルの津波が来たらどうなるかのシミュレーションをするべきだった。それがきちんと出来ていたらさすがに最低限の対応はしていたはずだ。もしシミュレーションをきちんとやった上で、最低限の対応をしなかったとすれば、邪魔だからといって自分の乗った足場板を切ってしまうようなものだ。また、シミュレーションをきちんとやらせなかったとすれば、まったく合理的な思考が出来なかったことになる。

判断をしたのは長い伝統が圧倒的な経済力政治力を持つ東京電力という巨大組織のリーダーであり、何故判断を誤ったかその理由を知り、今後は原発を運営する組織が判断を誤らないようにしなくてはならない。このあたりの関係者の証言は十分得られてはおらず、この判断に至る経過についてはいまだ解明すべき点が多い。

事故から一年たった頃、主な事故調査委員会の報告書が出揃ったが、そこで事故を人災と決めつけ、東電や監督官庁の組織の体質に踏み込んだのが黒川委員長率いる国会事故調だった。なかでも、黒川委員長が英語版の前文で、この事故を「日本型災害」としたのに日本語版では意図してそれを書かなかったことが話題となった。また、規制当局が東京電力の「虜」になっていたとの指摘も注目された。記者会見で黒川氏は日本人には言わずもがななので書かなかったと答えている。

黒川氏の委員会での活動に対して、アメリカ科学振興協会から「科学の自由と責任賞」を、東京アメリカンクラブから「Distinguished Achievement Award」を授与された。その一方、ブルームバーグは社説で「国会事故調の報告書が極めて物足りないのは、福島で起きた惨事を文化がもたらした災厄と結論づけていること」であり、責任を日本の集団主義に帰するのは「責任逃れ」であると批判。フィナンシャル・タイムズは、「福島事故を文化的な文脈で説明しようとするのは危険」と疑問を呈した。さらに、英紙ガーディアンは「文化のカーテンの陰に隠れる国会福島報告書」と批判した。

福島第一原発の事故に関して判断を誤った組織の体質を論ずることは重要であるが、欧米メディアの指摘するように日本文化論にしてしまうと対象が拡散しすぎ責任もあやふやになり、どうすればよいのかわからなくなる。かつて日本の原発関係者がチェルノブイリの事故を他山の石とせず、共産主義国家故の事故であることを強調しすぎた過ちを繰り返してはなららない。社会体制だ、文化だと言う前に、もう少し具体的あるいは実践的に組織内で何が起きたかを解明する必要がある。

判断を誤らせる原因がいかに組織の中で育ち、放逐されることなく受け継がれてきたか、具体的にその環境条件や判断を誤らせるに至るメカニズムを洗い出してみることが大切である。それが出来てこそ対策の方向性が見え、具体的に何をすればよいかが判るはずである。
(つづく)

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