日本エネルギー会議

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指摘は的を得ているか(1)

国際原子力機関(IAEA)が東京電力福島第一原発事故を総括し、加盟国に配布した最終報告書の全容が24日判明したというニュースが共同通信で流れた。記事は次のように続く。

(太字部分は引用)
東電や日本政府の規制当局は大津波が第一原発を襲う危険を認識していたにもかかわらず実効的な対策を怠り、IAEAの勧告に基づいた安全評価も不十分だったと厳しく批判した。報告書には事故の教訓を生かした提言も含まれており、今後、各国の原発安全対策に活用されるとともに、再稼働へ向けた動きを進める電力各社に対し、安全対策の徹底を求める声も強まりそうだ。
東電が原発事故の数年前、福島県沖でマグニチュード(M)8・3の地震が起きれば、第一原発を襲う津波の高さが最大約15メートルに及ぶと試算していたが、対策を怠ったと批判。原子力安全・保安院も迅速な対応を求めなかったと指摘した。

背景には原発は安全との思い込みがあり、
IAEAが各国に勧告する安全評価方法を十分実施せず、非常用ディーゼル発電機などの浸水対策を欠いていたとした。原発で働く電力社員らは過酷事故に対する適切な訓練を受けておらず、津波による電源や冷却機能の喪失への備えも不足。原発事故と自然災害の同時発生に対応するための組織的な調整もなかった。

東電が対策を怠った背景として「原発は安全との思い込みがあったから」というのはまったくの的外れである。また、原子力安全・保安院が迅速な対応を求めなかったのも、「原発は安全との思い込みがあったから」ではない。

IAEAが権威ある機関だとしても、この見解は間違っていると言わざるを得ない。思い込みというのは「安全神話」のことだが、それは地元自治体や住民の話であり、東電の幹部や保安院はすべての状況を把握していたが、あえて別のものを守るために、はなはだ非科学的、非合理的な判断をして対策を先送りしたまでである。その結果は「天網恢恢、粗にして漏らさず」で、大津波により全電源喪失となり史上二番目の大事故が起きた。

では、東電の幹部は原子炉の安全や住民の安全より優先して何を守ろうとしたのか。その答えは国会事故調の黒川委員長がいみじくも言った「福島第一原発の事故は日本型災害」にも通じる。東電の幹部が守ろうとしたのは、破綻する恐れのある核燃料サイクルの窮余の策である「第一原発でのプルサーマル実施」であり、各電力と比較して恥ずかしくない稼働率であり、東電の電事連におけるリーダーカンパニーとしての立場であり、これまで先輩諸氏が営々と築き上げてきた財力と政治力を併せ持った磐石の体制であり、東電グループの社会的経済的地位だった。

大地震と大津波に近々襲われることはないというまったく科学的根拠のない判断をし、現状を放置しても暫くはそれほどのリスクにならないだろうと考えた安易さや、危険を察知した人たちを押さえ込んでいく組織の体質こそ背景として指摘すべきことだ。さらに付け加えるならば、建設時の土台の高さに関する判断ミス、それから40年にわたってその致命的問題点を放置しつづけた歴代の幹部や規制当局の怠慢を指摘しなければならない。(詳細は日本原子力学会誌に掲載の拙文「福島第一原発の事故の背景に迫る」をお読みください)
事故原因なり背景なりに対するIAEAの指摘が不完全であれば、対策提言についても不完全なことになるのが当然だ。

(太字部分は引用)
IAEAは提言として、世界各国の原発で設計時の想定を超える自然災害への対策や、新たな知見に基づいた安全対策の強化を要請。第一原発で増え続ける汚染水の対策としては、浄化設備でも除去できないトリチウムを含む水の海洋放出を検討することを求めた。
◆報告書提言のポイント
▼自然災害の規模は十分に余裕を持たせて想定し、同時発生も考慮する。原発の安全対策を定期的に見直す
▼設計基準を超える事故に耐える性能を確認。過酷事故を前提とした訓練を実施する
▼従来の事故想定を疑い、安全意識を向上する
▼電力事業者、国や地元の当局の間で緊急時の役割と責任を明確化する
▼被ばくによる健康被害について、分かりやすい情報を適切に提供する
▼汚染水や放射性廃棄物の管理を含む国家戦略を策定する
▼政策決定に関し被災地住民の信頼と関与が不可欠

ここでは、主に自然災害に対する余裕のある対応や訓練のことが書かれており、わかっていながら誤った判断をする組織の体質やその体質を作り上げてきたさまざまな要因に対する防止策は抜け落ちている。これでは、いくら対策を充実しても、それが肝心な時に活かされる保証がない。

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