日本エネルギー会議

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ドイツの航空機事故

ドイツの格安航空会社ジャーマンウィングスのエアバスA320型旅客機墜落事故が、副操縦士の故意によるものだとの報道は世界中を驚かせた。副操縦士は機長がコックピットを出た後に再入室出来ないようにし犯行におよび、150人もの人を道連れにした。事故の原因のひとつとして、2001年のアメリカ同時多発テロ後、強化された操縦室へのセキュリティシステムが裏目に出たとの指摘もある。

どんなニュースを聞いても原発との関連を考えてしまうのは原子力に長年関わってきた者の性であるが、原発の中央制御室の状況を思い浮かべれば人数の差こそあれ、セキリュリティシステムに抜け道がないかもう一度検討する必要を感じてしまう。外部からの攻撃に対しては幾重にも防護措置が取られているが、トロイの木馬のように内部に入り込まれたり、内部の人間が寝返ったりした場合には以外に脆い面がある。昼間は構内に大勢の人がいて、中央制御室にも出入りがあるが、夜間は当直の10名余りの運転員だけの世界である。

機長はトイレに行くためにコクピットを離れたが、原発の場合、運転員全員が中央制御室を離れなくてはならなくなる事態は起きないのか。福島第一原発の事故では、全電源喪失で照明は消え計器類の表示もされなくなって、もうここにいる必要はないのではないかと考えた運転員もいた。

中央制御室内で火災や爆発が起き、有毒なガスが発生すると全員退避となる可能性がある。空調ダクトを通じて一酸化炭素やサリンなど有毒物が流れ込んだ場合、ダストの放射能濃度が上昇し室内が高放射線量となった場合、異常な酸欠状態になった場合なども、室外退避しなくてはならない。このような状況が機器のトラブルにより、あるいは意図的に作り出されないか検討が必要だ。

意図的に航空機の高度を下げれば地表に激突するが、原発の場合、意図的に操作をしようとしてもフェイルセイフとなって原子炉停止に向かう。しかし、電源を切り、冷却機能や閉じ込め機能を喪失させようとすることは熟練運転員ならば出来るだろう。ただし、運転員は複数なので数人以上が結託するか、人質を取らないと犯行は難しい。中央制御室への通路や部屋の扉のキーロックシステム、セキュリティシステムについても今回見直すべきだろう。
副操縦士は精神的な疾病により医師から勤務を止めるように指示されていたが隠していた。原発の多くは人里離れたところにある。独身者は原発に近い寮での生活。特に日本海側や北日本では冬は雪に閉じ込められる。若い運転員は社会や日勤者との接触が少なく、直の班内の人間関係にも苦労するため欝になりやすいのは、私が現地勤務の時に感じたことだ。運転員は昇格するに伴っての社内外の試験もある。精神面での条件は厳しいと考えるべきだ。

かつて訪問したロシアのバラコバ原発では、中央制御室に大学卒のエリート3名が白衣を着た正運転員として常駐していた。サービスビル内に特別の部屋があり、心理学を勉強した専門のカウンセラーを常駐させていて、運転員を中心に発電所員に対するカウンセリングを定期的に行っているとの説明があった。ロシアでは気候も厳しく、原発はまさに人里離れたところにあり、大学卒者はモスクワなど都市での勤務に憧れがあり、さらに社会的には飲酒による問題も存在していたようである。日本の原発では従来、事業所として契約する産業医は、放射線の専門知識に重点が置かれ、心療内科的な配慮はされていなかった。私はこの調査結果を帰国後報告したが、電力各社は特別な対応はしなかったようだ。

航空機では自動操縦技術が発達するとともに、コクピットの人数が年を追うごとに少なくなり、現在は原則2名勤務となって経済性に大いに貢献しているが、操縦士の技量、経験が落ちる傾向にあり、今回のような1名になって思わぬ事故になるリスクも生んでいる。原発も運転支援プログラムの開発やディスプレイの増加、現場操作を減らすなど、方向としては運転の自動化、省力化に向かって突き進んできた。ここでいったん立ち止まって、プログラム開発時のバグ除去とともに、運転員の意図的な危険行動による事故発生の防止も課題として検討する必要がある。

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