日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

テロリストと原発

(知らなくてもよいことか)
世界的にテロの脅威が高まっている今日、原発がテロリストの標的になる可能性がある。テロと原発について論ずること自体が「敵に塩を贈る」ことになるとか、専門家の取り扱う問題で素人が考えうるものではないという意見があるのは承知している。政府や電力会社も何もしていないのではなく、それなりに手を打っており最近では対策をさらに強化しているものと推察される。
しかし、専門家に任せておけば何も考えなくてもよいものなのか。福島第一原発の事故が専門家に任せた結果であったとすれば、やはりテロについてもどのような体制の下に対策が取られているかぐらいは知っておきたい気もする。原発建設を住民が容認する際、避難計画があることと同じように原発がテロ攻撃に耐えられることが一つの条件となる。そのためにも我が国の原発にはどのようなテロの脅威があるかを知ることも必要なことだ。

(標的になりやすい原発)
テロリストにとって大出力の原発に事故を起こすと同時に大都市を停電状態にもできるので原発はターゲットになりやすい。まず、すぐに思い浮かぶのは、送電線に対する攻撃である。小説「原発ホワイトアウト」でも描かれたように、人里離れた山の中を何百キロにもおよぶ送電線が通っているため防御がしにくい。送電線を攻撃されて送電も受電もできなくなれば、原子炉はすぐにスクラムし運転中にも増して膨大な崩壊熱を出す。それに合わせて内部に侵入したテロリストの仲間が非常用電源を動けないようにすれば福島第一原発事故の再来となる。非常用ディーゼル発電機は建屋内の機器以外に、燃料の重油タンクや排気筒なども攻撃されれば使えなくなる。
メルトダウンに至らないまでも停電になれば、政府の対応体制を麻痺させ混乱におとしめ、他のターゲットに対するテロ攻撃が容易になる。送電線の防護に関して、現在どのような実効性のある対策が考えられているか、少なくとも外見上はわからない。

(メルトダウンという弱点)
次に原発に対する直接的な攻撃がある。原発へのテロは行き着くところメルトダウンになる。原子炉建屋は水素爆発でわかったようにオペレーティングフロアより上は、ほとんどの場合鉄筋コンクリート構造ではなく鉄骨づくりである。ミサイルや砲撃などに対しても建屋の天井を狙われると一番弱い。運転中はコンクリートプラグや格納容器・原子炉圧力容器の蓋がしっかり原子炉を守っているが、定期検査中、それらは取り外され原子炉は開け放たれた状態である。プールについても上部にカバーはない。ステンレス製の燃料プールの下部に穴をあけられたら、同じ量の注水をしなければ、ほどなく燃料棒が空中に露出してしまうことになる。また、プールの水位を維持するためのポンプや配管などが破壊されれば同じことだ。通信装置の破壊も事故対応に致命的なダメージを与える可能性がある。通信途絶は電源がなくなれば起こり得ることは東日本大震災で経験済みだ。原発の制御の多くに圧縮空気が使われているが、地下にある所内コンプレッサーを破壊することで多くの機器の制御ができなくなる。
送電線切断によるスクラムと同時に中央制御室の制御盤や電源室を破壊されれば原子炉の冷却はできなくなる。猛毒塗料あるいは毒ガスによって運転員を操作盤に近づけなくすることでも目的を達することが出来る。運転員が吸っている空気を送っている空調装置は厳重な管理をされるべきである。電力会社、メーカーの社員あるいは下請の作業員がテロリストだった場合、工具箱などにプラスチック爆弾や毒薬を紛れ込ませて持ち込む可能性はあり金属探知機だけでは防げない。原発は放射能汚染管理のために、原発から物を外部に持ち出す際には神経質に放射能検査をしているが、持ち込みについては同様に厳格であるとは思えない。今後は持ち込み品に対して空港並のプロの検査体制が必要となろう。

(物理的防護)
枢要部分の立ち入りについても運転員だけでなく、点検、修理、清掃などさまざまな人が対象となる。最近、作業員の人物確認を出来るようにするという話があったが、実施するには人権などいろいろ問題があるらしい。原子炉をメルトダウンさせれば、テロリスト自身も危険な状態になるが、それを怖がらず使命のためには命をおしまないのがテロリストである。
かつて、各国の原発を訪問した際には警備において日本との明らかな差を感じた。アメリカでは乗車していたバスが機関銃を持った州兵に発電所のずっと手前で停止させられた。ロシアでは要所に銃を持った警備員が配置されていた。中国の泰山では原発の周囲を軍隊が行進していた。日本の原発周辺に行くと、周囲にセンサーやカメラが配置され、正門近くに機動隊のバスが停車しているのと、写真撮影禁止となっていること、沖合に海上保安庁の巡視艇が停泊していること以外は特に気づくものはない。

(最新技術が弱点に)
最近の原発の運転監視にはコンピュータが多用されている。制御盤や運転デスクには数多くのディスプレイがはめ込まれ、運転員はその表示画面を切り替えながら状況確認をしたり、操作のための条件などを検索したりする。紙の配管図や系統図もあるが、それを画面で見ることが出来るようになっている。原発のコンピュータは独立しており、インターネットとはつながっていないので、ハッキングされないと言われてきたが、USBメモリーなどを通じてウィルスが忍び込むことも現実的な脅威として考えておかねばならない。ウィルスは時間指定で働き始めるものもあるから、機械的テロ攻撃に時間を合わせてウィルスが活動し始めるように仕組まれれば、現場の対応は混乱するだろう。
最近よく聞く「ドローン」と呼ばれる無線で操縦する無人ヘリで原発構内の警備状況を空から観察することも可能であり、小型爆弾を落とすことも出来る。フランスでは原発の上空に飛来したというニュースもあった。これから無人機による攻撃は大きな脅威となる可能性が高い。

(空想で済むのか)
このように空想を膨らませれば、テロ対策のポイントが浮上するだけでなく、その難しさがわかってくる。政府事故調の畑村委員長が言うように「起きうることは起きる」のであれば、大津波対策と同様、テロ対策についても明日テロに襲われるかもしれないので、再稼働に向けてそれなりの対策をしておかねば住民は枕を高くして眠れない。IAEAも日本のテロ対策に注目している。隣の中国や韓国、北朝鮮の原発も事故を起こせば日本にまで影響する。このなかにはテロ国家と呼ばれている国もあるが、その国でもテロが起きないとは言えない。
今年1月に原子力規制委員会は、原子力施設へのテロ対策の強化に向けた行動指針をつくることを決定した。狙いは委員会事務局員も含めてテロ対策の重要性の認識の共有と規制の実効性を高めることだという。実際にテロ対策をやるのは電力会社で、規制委員会はそのための指針づくりをするに過ぎない。どうやるかが大切だ。2013年11月発足した国家安全保障会議がこの問題についてどの程度踏み込んだ検討をしているか、電力各社の計画はどこまで実行出来たのか、国会でも質問がないのは甚だ遺憾だ。

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康