日本エネルギー会議

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記録が語る現場の問題点(4)

福島第一原発の事故現場で恐怖と戦いながら危機的状況を乗り切った福島原発所員の行動記録がある。それは原発事故を防ぐための、また適切な対応を考えるうえの貴重な資料でもある。読んでいくと、所員たちが何に対して、どのように困ったかが端的に伝わってくる。青字は記録、黒字はそれを読んで考えた私なりの指摘である。

「3/11 15:42 全交流電源喪失の判断・通報」以降の活動内容
【津波到達】
・15:27 に津波第一波、15:35 に第二波が到達。中央制御室や免震重要棟、避難場所の駐車場で、津波の音は確認されなかった。中央制御室から発電所対策本部に、D/G が停止したとの連絡が入る。その後、中央制御室から発電班長にサービス建屋入口まで水が来ているとの報告があった。
サービス建屋入口は海面から10m の高さにあり、当初はそこまで水が来るとは考えられなかったため、「入口とはどこの入口か」と発電班長は何度か聞き返した。次第に発電所対策本部内でも津波が襲来したことが確認され始めた。

・5,6 号機の防護管理ゲート付近で避難誘導を行っていた運転員と警備員は現場から避難してくる人がいなくなった後、海の方を見ると、海水が引いて普段は見えない海底が見えた。すぐに高台に避難し、海の状況を監視していると壁のような津波が発電所に押し寄せてきた。津波は防波堤を破壊して、取水ポンプ付近まで到達。次に押し寄せた津波によって取水ポンプは飲み込まれた。重油タンクは破壊され、重油が海に漏れ出していた。サプレッションプール水サージタンクの側面は押し潰されて変形、海側に駐車していた車は波に飲み込まれた。海には津波で流された重油タンクが漂っていた。

・11 日15:42、原子力災害対策特別措置法(以下「原災法」)の第10 条事象『所内全交流電源喪失』に該当すると判断し、官庁等へ通報。

・11 日16:36、1,2 号機の原子炉水位が確認できず、注水状況が不明なため、原災法の第15 条事象『非常用炉心冷却装置注水不能』に該当すると判断。16:45 に官庁等に通報。

指摘事項7
1.
サービス建家入口だけでなく、海水が侵入しないように水密措置が必要な箇所はすべて確認され対策する必要がある。
2.
重油タンクなどが破壊された際に、火災爆発の危険性はないのか検討する必要がある。
3.
タンク類がすぐに浮上してしまわないよう、基礎への取り付けを強化するなどの対策が必要である。
4.
水位確認などが出来なかった原因は何か。原子炉水位が確認出来ず、注水状況が不明である場合にすべきことを決めて置く必要がある。
5.
水位計について一つの原理でなく別の原理に基づいて計測できるように改善する必要がある。
6.
原子力災害対策特別措置法に定められた報告しなければならない事象  の過不足について検討する必要がある。福島第一原発の事故の反省によって追加削除は適切に行う必要がある。
7.
津波の高さによってどこまで海水に浸かるか、どのような損害が予想されるかについて、あらかじめ運転員に教育しておく必要がある。
8.
建屋の入口や周囲、あるいは建屋内の位置を表現する記号や番号を決めて現場に表示して、すぐに正しい位置が報告できるようにする必要がある。
   
【中央制御室の状況】
<1,2 号機中央制御室>
・11 日15:34、地震によるスクラム対応や警報確認が一段落し、落ち着きを取り戻しつつあった中央制御室で、2 号機において「SW(補助冷却海水系)トンネルダクトサンプレベル高」警報が発生した。続いて、15:37、2 号機で「RVP(逆洗弁ピット)サンプレベル高」警報発生した。同時に、1 号機のD/G がトリップした。運転員は「SBO(所内全交流電源喪失)」と叫んだ。電源関係の状態表示灯が点滅し消えていく。警報表示灯や状態表示灯も消え、計器も読めなくなっていく。計器を見ようとしたが次々と消えていき、最終的には中央制御室1 号機側照明は非常灯のみ、2 号機側照明は真っ暗となった。鳴っていた警報音も消え、中央制御室内は一瞬シーンとなった。最初は何が起きたか分からず、目の前で起こっていることが本当に現実なのかと疑いたくなるような状況であった。

・同じ頃、原子炉保護系の電源復旧を終えた運転員2 名が現場確認のため2号機タービン建屋地下階の廊下を移動していると、突然現場の照明が消えると同時にD/G の作動音が消え、停止した状況に遭遇した。運転員は状況報告と自身の安全のため、サービス建屋2 階にある中央制御室に戻ろうと考えた。途中タービン建屋地下階では、D/G 室の入り口水密扉ののぞき窓から水が吹き出ていた。タービン建屋1階では普段開いているサービス建屋1階の中央制御室に向かう廊下の扉が閉まっていた。二人がかりで押しやっと開けたところ、海水が大量に流れ込んできた。運転員は腰まで海水に浸かりながらも、中央制御室に向かった。サービス建屋1階は80cm 程度水があり、近くにあったものが流れていた。階段を上りずぶ濡れのまま2 階の中央制御室に戻った。

・「海水が流れ込んできている」と大声で叫びながら,ずぶ濡れの運転員が戻って来たことで、中央制御室の運転員は津波の襲来を確信した。

・1 号機側は非常灯のみ、2 号機側は真っ暗となった中央制御室では、当直長は動作している計器や使用出来る設備が残ってないか確認をするよう指示した。運転員は屋外パトロール用の懐中電灯や中央制御室に配備してあったバッテリー付き照明などの照明を集め、それらの明かりを使いながら計器の指示を確認していった。設備は状態表示灯が点灯し、中央制御室から操作出来るものを探していった。

・しかし、ほとんどの表示灯が消灯し、操作出来ない状況であった。戻り配管隔離弁(MO-3A)の開閉操作により原子炉圧力制御を行っていた1 号機のIC は隔離弁の状態表示灯が消灯し、開閉状態が確認出来ず中央制御室からは操作ができない状態となり、運転員は動作しているかどうかわからなくなった。HPCI についても制御盤の状態表示灯が全て消灯し、起動不能な状態であった。2 号機については直前に手動起動したRCIC の制御盤の状態表示灯が消灯し、動作しているかどうかわからなくなった。HPCI は制御盤で状態表示灯が消灯し、起動不能な状態であった。

・15:50、原子炉水位が不明となっていることを確認した。全交流電源に加え、直流電源も喪失し、全電源喪失となった。当直長は確認した結果を随時発電所対策本部発電班に連絡した。

・運転員がずぶ濡れになって戻って来ていたことや,津波によりタービン建屋地下階が水没,サービス建屋1階も浸水したとの情報があり,余震が継続し、大津波警報が発令されている状況では,2 階の中央制御室を出て現場確認を開始することは出来なかった。

・何人かの運転員が復旧のために現場確認をしたいと申し出た。当直長も現場確認の必要性を感じていたが、現場の安全確認が取れておらず、必要な装備も整っていなかったため、すぐには現場に向かわせることは出来なかった。

・しかしながら、設備の状態表示灯が消え、計器の指示も確認できない中央制御室では、地震や津波による影響を含めてプラントの状態を把握できないため、当直長は今後の復旧に向けて建屋内の被害状況や進入ルートの把握、津波による電源設備の被水状況、設備の使用可否の確認等の現場確認を行うこととし、準備を開始した。

・11 日16:25、当直長は非常用炉心冷却系が使えず、原子炉水位が不明な状態が継続していたため、原災法第15 条事象が発生したことを発電所対策本部に連絡した。

・中央制御室と発電所対策本部間の通信手段は、最終的にPHSは利用出来ず、ホットライン2 回線のみとなった。(3,4 号機、5,6 号機の中央制御室も同様)

指摘事項8
1.
中央制御室の照明も失い、警報音も出せない状況に備えてなんらかの対策をする必要がある。サービス建家だけでなく原子炉建家、タービン建家などの現場についても交流電源がすべて失われても最低限の照明が確保出来るようにする必要がある。
2.
水圧で開かなくなった扉を開ける手段を考えておく必要がある。
3.
全身ずぶ濡れになった場合に備えて、中央制御室にはタオルや毛布、着替えなどを準備しておく必要がある。
4.
中央制御室などの懐中電灯やバッテリー付きの照明などの種類、数は適正なものに変更される必要がある。
5.
直流電源喪失対策を幾通りか検討し、さらにそれを多重にしておく必要がある。
6.
ICのように現場の機器や弁がどのような状態になっているかを計器で確認出来なくなった場合にどのようにするのか。現場に運転員が行って確認するにも物理的に出来ないあるいは放射線量の問題があるときはどのようにするか検討し、対策を立てておく必要がある。
7.
強い余震に対して現場に出ることを禁止するなど、どのようにするかを決めておく必要がある。余震が強ければ現実的に何も出来ない。現場に出るのに必要な装備とはどんなものか検討し、配備しておく必要がある。
8.
中央制御室との通信手段について多重化しておく必要がある。また、回線を多数準備しておかないと、電話が空くのを待つことになる。PHSが何故不通となったのか原因を調べて対策をしておく必要がある。
9.
運転員はどのようなことが起きても、気持ちが動転しないようなメンタルトレーニングをしておく必要がある。
10.
中央制御室など人がいる部屋については、全面マスク作業はきついので換気空調、放射性物質がはいりこまないよう独立した装置を検討する必要がある。 
(つづく)

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