日本エネルギー会議

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記録が語る現場の問題点(1)

福島第一原発の事故が起きてから、国会、政府、民間、東電など各事故調が活動し、事故の状況が明らかにされるとともに原因の特定が行われ、対策の提言が行われた。その後、設備や運用で改善すべき点について関係者の合意が得られ、それが新基準や社内の規則となり、新たな設備や手順が作られ、訓練が行われたと大方の人は思っている。だが、外部からはその経過や内容は把握しにくく、専門的でもあるため、その妥当性の判断も十分にできるとは言い難い。

ここに現場で恐怖と戦いながら準備不足を乗り越え、あの危機的状況を乗り切った福島原発所員の行動記録がある。それは原発事故を防ぐための、また適切な対応を考えるうえの貴重な資料でもある。これを読んでいくと、所員たちが何に対して、どのように困ったかが端的に伝わってくる。実際に事故に遭遇した者たちの記録が語る現場の問題点と言ってもよいだろう。青字は記録、黒字はそれを読んで考えた私なりの指摘である。

【地震発生】
・ 11 日14:46、地震発生。揺れは段々と大きくなっていった。事務本館では、各部署のマネージャーなどがメンバーに対して机の下に隠れるよう指示。各自、現場作業用のヘルメットをかぶるなどして、身の安全を確保した。
・ 防災部門のマネージャー及びメンバーは、揺れている最中に緊急放送の部屋に行き、避難の放送をしたが、途中で地震により放送設備が使用不能になった。その後、拡声器で避難するように呼びかけながら走り回った。
・ 揺れは長く続いた。天井のパネルは落下、棚は倒れて物が散乱、机は大きく動き、机の下に閉じこめられる人もいた。揺れが収まってから、閉じこめられた人を救出し、避難場所の免震重要棟脇の駐車場に移動した。1 週間程前に避難訓練を行ったばかりで、各自が避難通路,避難場所を把握していた。
・ 所長室では、棚に並べていたものなどが散乱する中、発電所長は机の両端を掴み、揺れが収まるのを待った。揺れが収まった後、ヘルメットをかぶり部屋の外に出た。事務本館の正面玄関付近には人がたくさんいたため、免震重要棟に避難するよう指示するとともに、グループ毎に人員確認をすること、作業員を全員避難させることを指示した。

指摘事項1
1.
事務本館の耐震性が不足している。事故対応に必要な要員が死亡したり怪我する可能性がある。所員は普段から免震重要棟で勤務しているわけではない。天井のパネルは落下しないような構造にする必要がある。また、窓ガラスは割れて飛び散らないように、棚はすべて転倒防止とバインダーなどが落下しないようにする必要がある。
2.
放送設備が地震で使用不能にならないよう、耐震性を強化するか、二重にするべき。拡声器も必要数を準備する必要がある。
3.
所長室の安全性について配慮するべき。所長が怪我などすれば事故対応に大きな支障が出る。棚の物品や書棚も凶器になりうる。扉なども変形して開かなくなる可能性があるため、対策が必要である。
4.
こうした場合、どこに集合するか、移動するかを決めておく必要がある。
5.
人員確認はなにを元に行うのか。当日誰が出社しているか、誰が構内にいるか、どこにいるかはどうやって把握するのか。方法を検討し、準備する必要がある。協力会社従業員はどこで確認するか決めておく必要がある。

<1,2 号機中央制御室の状況>
・ 1,2 号機では地震発生時、当直14名と作業管理グループ10 名の計24名の運転員が勤務していた。
・ 揺れが収まるのを待って、運転員は通常のスクラム対応操作を開始。運転員は、1,2 号機それぞれの現場に対して地震発生と津波及び避難についてページング放送で周知した。
・ 当直長はスクラムしたことを確認し、1 号機と2 号機のパネルの中間で指揮をとる。各制御盤前に付いた運転員は、主任の指示に従って、状態監視と操作を実施。主任は、プラント状態、操作状況を当直長へ報告。運転員は、外部電源喪失となり、非常用ディーゼル発電機(以下「D/G」)が起動し、非常用母線が充電されたことを確認する。
・ 1 号機の制御盤前でパラメータを監視していた運転員が、原子炉圧力が低下していることを確認した。主蒸気隔離弁が閉鎖した状態にもかかわらず原子炉圧力が低下していたため、他の運転員に原子炉圧力の低下原因の確認を依頼したところ、非常用復水器(以下「IC」)2 系統が起動(14:52 自動起動)しているとの報告がなされた。中央制御室では、IC 起動による蒸気発生音を確認した。
・ 1 号機の原子炉圧力の低下が速く、操作手順書で定める原子炉冷却材温度変化率55℃/h が遵守出来ない1と考え、15:03、IC の戻り配管隔離弁(MO-3A,3B)を一旦「全閉」とし、他の弁は開けたままで通常の待機状態とした。原子炉圧力の低下が止まったことから、原子炉圧力の低下はIC が起動したことによるもので、原子炉の隔離状態に異常がないことを確認した。原子炉水位は維持されていたため、ICによる原子炉圧力制御を行うこととした。原子炉圧力を6~7MPa 程度に制御するためには、IC は1 系列で十分と判断,A 系にて制御することとし、戻り配管隔離弁(MO-3A)の開閉操作にて原子炉圧力制御を開始した。
・ 1,2 号機とも、高圧注水系(以下「HPCI」)などの非常用炉心冷却系については異常を示す警報は確認されず表示灯も正常であった。
・ 1 号機の運転員は、原子炉注水が必要になるまでHPCI をテストライン2で運転することを考え、一旦当該ラインを構成したが、原子炉水位は安定しており、IC により原子炉圧力が制御出来ていたことから、当該ラインを元に戻した。HPCI は自動起動可能な状態であることを確認し、他の運転操作や監視に専念した。また,今後のHPCI や主蒸気逃がし安全弁の動作に備えて、15:07,15:10 に格納容器冷却系2 系統を起動し、圧力抑制室の冷却を開始した。
・ 2 号機の運転員は、14:50,原子炉水位を確保するために原子炉隔離時冷却系(以下「RCIC」)を手動起動した。14:51,原子炉への注水により原子炉水位高で自動停止したことを確認。その後15:02 に手動起動し、15:28 に再度原子炉水位高で自動停止。15:39 に再度手動起動した。また、1 号機同様、15:07 に残留熱除去系1 系統を起動し、圧力抑制室の冷却を開始した。
・ パラメータも問題なしという報告を受け、当直長は「このまま収束(冷温停止)に持って行ける」と感じていた。

指摘事項2
1.
ページングで津波について放送したとあるが、どこからの情報か。津波の程度をどのように予測したのか、また対応はどのように考えたのか。今後は、外部の情報をどのようにしてキャッチするか、津波警報に対してどのような行動をするのか決める必要がある。
2.
「中央制御室では,IC 起動による蒸気発生音を確認した。」とあるが、蒸気発生音をかつて聞いたことがある運転員がいたのか。今後はどのようにしてIC起動を確認するか決める必要がある。
3.
どこかの号機の外部電源が生き残った場合、簡単な作業で各号機で使えるように設備改善をする必要がある。 

(つづく)

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