日本エネルギー会議

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電力格差社会

2016年夏の午後。私鉄沿線の一戸建が密集した住宅地に住む主婦の明子は、スーパーでのパートの仕事を終え帰宅し、郵便受けに入れられた電力会社からのお知らせを見てため息をついた。お知らせは「電気料金の値上げのお願い」とある。これで何度目の値上げになるのかしらと思いながら読んでいくと、今回は値上げだけでなく時間帯によって細かく料金を変えることがわかった。そういえば、今年の初めに電力のメーターをスマートメーターに換える工事があった。以前から深夜電力が安いことは知っていたが、電気がまるで生鮮食料品や株式のように刻々と値段が変わる商品になるとは驚いた。暑いのでエアコンのスイッチを入れようとした手が止まった。

遅い夕食を食べながら明子は夫の健太に「また、電気代が上がるそうよ。3.11からこれで5回目。最初と比べるとほとんど2倍になったわ」。健太は箸を休めずに、「しかたがないだろう。うちは電力会社の勧めでオール電化にしたのだし、電気なしには暮らせないから」と応じた。

「それに今度は時間帯で料金を変えるらしいの。夏や冬のピーク時に高い料金になるからエアコンを使うとたちまち家計に響くようになるし。一体なんのための電力自由化なのかしら」それでも返事をしない夫に対して、明子は「ウチもソーラーを上げたらどうかしら。ソーラーなら暑い時に電気を出すから一番値段が高い時に電気を買わなくて済むし、共稼ぎだから昼間は電気を売れるので一石二鳥。姉の家では4年前に新築したときにハウスメーカーに勧められてソーラーを付けたそうよ。電気代は売電収入でほとんど相殺されると言っていたわ」

そこまで言われて健太はようやく顔を上げて明子を見ながら口を開いた。「ソーラーを上げるには足場代など含めて工事に200万円はかかる。家のローンはまだ10年残っているからそんな余裕はない。それに今では買取価格が下がってしまっているので以前ほどはうまみがないよ」

健太は自分たちが高い電気を買いながら、既にソーラーを上げた世帯やメガソーラーで儲かっている連中のために電気代と合わせて再生可能エネルギーの開発促進費を支払っているのは、明子に言われるまでもなく納得がいかなかった。一般家庭用の電気の自由化は今年中に行われるが、これで電気料金が安くなるかはわからない。オール電化でエコキュートをつけているので、安い深夜電力が使えているのが、せめてものなぐさめだ。

何故電気代が高くなっているのか。昨年までは原発が停止していてその分、火力発電の燃料費が年間何兆円も余計に掛かっていると言っていたが、昨年からは原発も一部再稼働し、化石燃料の価格も低水準だと聞いている。それなのに電気代が上がるのは、円安もあるが再生可能エネルギーの開発促進費とともに政府が原発について価格保証制度をつくって、その財源を消費者から徴収するようにしているからだ。原発の廃炉に備えた積立金も以前から料金に含まれている。ソーラー以外にも風力、バイオマスなどは火力発電の何倍もの額で買い取ることにしている。これらを全国民、全企業が負担するのならわかるが、主に自家発やソーラーを持たない中小企業や一般家庭に負担させているのは不公平だ。

価格保証制度は原発のエネルギー安全保障と環境維持のためだといっているが、そうしないと今ある原発が追加の安全対策費や廃炉費用等も含めコスト割れして、いつまでたっても電力会社の収支がバランスしないからだ。要は福島第一原発の事故を含め、国のエネルギー政策の失敗のつけなのだ。相変わらず国は取りやすいところから取る政策をやっている。

これから逃れるには、ガス会社の勧めるエネファームを設置してガスによる発電と給湯をして、電力会社から電気を買わないようにすることだ。あるいはソーラーと蓄電池の両方を家に付ける手もあるが、300万円以上もするので、そう簡単には出来ない。すでに自由化されている産業用の電力では2011年度以降、顧客が割高な電力会社から、新規参入した電力事業者に契約を切り替えつつあり、その量は2014年度末で、全国で1200万キロワットにも上るという。

あまりに離脱が進むようだと、原発の停止や不安定な再生可能エネルギーをカバーするための火力発電の費用を賄えなくなるから、国と電力会社は、電気を購入せざるを得ない中小企業や一般家庭からその費用も徴収するだろう。今流行りのピケティのいう資本主義の格差が、電気料金負担を通じてさらに拡大してしまう。

電力会社が戦後、地域独占を始めた頃、電力会社は津々浦々まで安くて安定した電気を各家庭まで送るという供給責任に燃えていたが、いまや会社を守ることに汲々としている。自由化になれば、市場原理にしたがって弱者がしわ寄せを受けるようなことが電気の使用に関しても平気で行われるようになる。電気や水道など日常生活に必須なものについて、どこまでも市場原理に任せていては、低所得者は憲法で保証された最低限の生活が出来なくなる。完全自由化と同時に政府が、弱者保護のための手立てを打つ必要がある。

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