日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

基本計画の誤謬

安倍内閣により2014年4月に閣議決定された新しいエネルギー基本計画によると、「原子力の利用においては、いかなる事情よりも安全性を最優先することは当然であり、―略― 世界最高水準の安全性を不断に追求していくことが重要である。」「いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ―略―、「原子力事業者を含む産業界は、自主的に不断に安全性を追求する事業体制を確立し、原子力施設に対する安全性を最優先させるという安全文化の醸成に取り組む必要がある」「原子力事業者は、二度と原子力事故は起こさないとの強い意思を持ち、―略―(詳細は末尾参照)」となっている。

基本計画は修身の教科書なのだろうか。ここで言っていることは、利潤を求め株主のために資本を増殖させることが目的の資本主義の論理とはまったく合致しないものだ。「いかなる事情よりも安全性を最優先させる」は、人道的、倫理的なもの言いであり、本来、利益追求が目的の私企業にそれを求めるのはお門違いだ。インドの化学工場の爆発事故のように、しばしば利益優先により住民に被害が及ぶことがあるため、このような言い回しがされるのであろうが、論理的に誤謬がある。(もちろん電力会社は公益事業であり、安くて安定的な電気を供給して社会インフラとしての役割をはたすべきだというのはわかる)

取り組む必要があると義務付けるのであれば、その理由を説明しなくてはならない。政府が民間事業者や産業界に上から目線で安全を迫っても、それは規制基準というもので罰則を持って縛らなければ単なるお願いである。国会や政府はそのためにある。住民や環境に悪影響を与えた場合は、罪になると決めて、それを冷徹に実行すればよい。それをやらずに建前や格好の良いことばかり並べ、事故が起きても責任追及が出来ないから、国民も信用しないのだ。インドではあの大惨事以降、法律で事業者の責任を徹底的に問う法律が出来たため、インドで原発などの事業をやろうとする外国資本は二の足を踏んでいる。

では、エネルギー基本計画にはどのように書いたらよいのだろうか。それは「経済性と安全性の両立」でもなく、「事故を起こせば、その損害により経済性は失われ事業が継続出来なくなることを認識する必要がある」とすべきである。また、「大事故を起こせば、施設の周辺住民の反発で廃業に追い込まれることを常に忘れてはならない」と追記するのも良いだろう。東電はそのことを身をもって知ったはずだ。「安全はペイするものだ、逆に安全にやらねばペイしなくなるよ」というのが正しい諭し方ではないか。

かつてアメリカの原発事情を調査に行ったことがあるが、そこで目にしたのは、資本主義の総本山に相応しく経済性、合理性が現場の隅々まで透徹していた姿だった。各原発は社外の同型、社内でも絶えず稼働率競争が行われており、定期検査期間に訪問すると、事務所にも緊張感がみなぎっており、事故を起こさず一日でも短縮しようとさまざまな工夫がされていた。発電所の本社やオーナーは株主の期待に応えるため、より多くの利潤を上げることを望み、日本人からすれば露骨としか思われないアメとムチで、現場の所長以下を管理していた。事故を起こして定期検査が延びれば、保修課長の首は危うく、逆に短縮に成功すればボーナスが気前よく出る。事故を起こせば会社が危うくなり、事業の社会的責任も果たせず、関係者は職を失うということを明言して従業員を叱咤していた。日本人からすればなんともビジネスライクなこのやり方は、既に20年近くもアメリカの原発の平均稼働率を世界トップクラスの90パーセント台に維持するという成果を挙げている。この間、大きな事故も起こしていない。それはアメリカだから出来るのであって、普遍性がないものなのだろうか。

組織の安全文化の欠陥を指摘された日本原子力研究開発機構は、事故を起こしても、点検をミスしても、計画から遅れても職場はなくならず、処遇も変わらない。それはアメリカの原発と真逆の職場風土である。

(参考)エネルギー基本計画 2014年4月 より抜粋
第3章 エネルギーの需給に関する長期的、総合的かつ計画的に講ずべき施策
第4節 原子力政策の再構築
3.原子力利用における不断の安全性向上と安定的な事業環境の確立
原子力の利用においては、いかなる事情よりも安全性を最優先することは当然であり、我が国の原子力発電所では深刻な過酷事故は起こり得ないという「安全神話」と決別し、世界最高水準の安全性を不断に追求していくことが重要である。いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる前提の下、原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める。その際、国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組む。

原子力事業者を含む産業界は、自主的に不断に安全を追求する事業体制を確立し、原子力施設に対する安全性を最優先させるという安全文化の醸成に取り組む必要がある。国はそれを可能とする安定的な事業環境の整備等必要な役割を果たしていく。原子力事業者は、二度と原子力事故は起こさないとの強い意思を持ち、原子力のリスクを適切にマネジメントするための体制を整備するとともに、確率論的リスク評価(PRA)等の客観的・定量的なリスク評価手法を実施することで、個々の原子炉ごとの安全性を評価し、継続的な安全性向上につなげていくことなどが求められる。
以下省略

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康