日本エネルギー会議

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避難時間シミュレーション

福島第一原発の事故による避難状況視察の世話をした関係で、台湾から時々質問がくる。今回は川内原発の事故時の避難計画に関するものであり、新聞記事で「29時間で避難完了」とあるが、それはどのようなシミュレーションで得た数字かという質問だった。メールをもらって、すぐに昨年訪問した台湾の平地が少なく、四方を海に囲まれた地形や狭い台北空港などを思い出した。台湾は人口も多く、地理的には原発の事故対応について日本以上に厳しい条件が揃っているため原子能委員会でも悩んでいるようだ。

こちらも新聞記事などで見ただけだったので、早速鹿児島県庁のホームページを検索すると、「災害に備えて」と題した項目に「避難時間シミュレーション」があり、報告書概要版と詳細版6編が掲載されていた。この報告書は実際に読んだことがなかったので、あらためて目を通すと、なかなかの力作である上に、わかりやすく書かれている。まだ、報告書をご覧になっていない方は是非お読みになることをお勧めしたい。
鹿児島県/避難時間シュミレーション

私が読んでみて、設定条件についての疑問点、課題がいくつか浮かんだので指摘しておきたい。
・1台の車に近所の人と乗り合わせを期待しているが、果たして上手くいくのか。福島第一原発の事故の事故の際、近所の人を乗せた例もあったが、田舎だからといってそれに期待しすぎるのは現実的ではない。

・避難の人たちの車両以外にも、事故対応の車や企業の車など多くの車両が動く。優先すべき車両もあるはずだ。避難の車両だけでシミュレーションしても正しい結果は出ない。

・地震などによる道路の寸断が一ヶ所でもあれば大きく狂ってしまう。現在は1本の道の通行止めを考慮しているが、東日本大震災で福島県浜通りの道路は無事だった幹線道路がたちまち渋滞し、迂回用の道が何箇所となく地震と津波の影響で通行止めとなった。また、福島第一原発の前を通る道も使われた。震災当日、妻は昼から車で20分の隣町に買い物に出かけていたが、道路事情のため帰宅したのは5時間もたった夕方だった。

・普段からの避難のための準備をしていない世帯では、荷物をまとめ車に積み込み出発するのに30分から1時間程度はかかる。また、外出している家族を待つことが多い。戸締りや家畜・ペットの問題もある。

・風向が条件として入っていない。避難者は風向を気にするはずである。また、避難指示は風向を考慮するべきであろう。SPEEDIはもう使わないのか。

・UPZの人たちも情報をキャッチすれば、知り合いにすぐ連絡し、我先に自家用車で避難を始めると考えるのが現実的である。PAZ優先はかなり難しい。具体的な規制の方法は今のところ見当たらない。

・空間線量率500マイクロシーベルト/時を超えた地域は1日以内に、20マイクロシーベルト/時を超えた地域は1週間以内に避難させるとしているが、住民からすればそんなゆっくりの避難は気持ち的に考えられない。

・全部自家用車でバスはなしの条件設定は現実的ではない。バスは学校や役場には必ずあり有効に使われるはず。バスや救急車がなければ弱者の避難は困難である。地震など自然災害の場合は、多くの人は自宅ではなく、広域避難所などに来ている。そこから自宅に戻るかはわからない。そのままバスに乗せるとしても、一旦家に戻りたいと思うのが普通である。

・避難した車両は30キロ圏を出たところで停車するとは思われない。その付近は大混雑してその影響はその先まで続き。後から来る車両に影響するはずである。

・全車両が故障もなく、ガソリンも十分であるはずがない。交通事故の可能性もある。福島第一原発の事故の際は、ガソリンが切れて途中で車を置いていった人も多勢いた。

いずれにしても、人口と車両の台数だけのシミュレーションでは、実際的ではなく、これを基に安易に避難計画を考えるのは危険である。また、川内原発の事故の状況によって、避難指示をどのタイミングでどの範囲に出すかは、その時になってみなければ分からない。また、原発事故の情報を事前に知った住民側がどのような避難行動を開始するかも不明である。福島第一原発の事故の際には、多くの住民が事故情報や放射線量を知らされないままに「避難せよ」、あるいは「隣の町村に避難せよ」との町役場の指示で避難を開始した。原発の状況がまったく知らされなかったために、かえって避難指示に素直に従い、避難がスムースにいったのかもしれない。

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