日本エネルギー会議

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「お美味しんぼ」騒ぎと福島県民

表現の自由は別として、漫画「美味しんぼ 福島の真実編」は、福島県に住む私には不快な内容だ。福島県内は低線量のところも多く、全域が居住不適のような「福島はもう住めない」との表現は明らかに問題で、不安をあおり、住民を傷つけた。知事が遺憾の意を表したのも当然だ。

漫画に対する人々の反応は、福島県では大きくわけて二つのグループが存在する。第一のグループは、放射線の健康影響に関する不安から県外に避難したり、遠く北海道や九州に自主避難したりした人々で、三年の間に既に県内に戻っている人やこうした行為を理解し共感している人も含まれる。第二のグループは、県内は避難区域でなければ、あまり放射線の健康への影響を心配しないで暮らしてもよいのではないかと考えるグループで、避難しなかった住民や県内に避難した住民はこれに入る。

第一のグループは、遠くまで避難したり、家族がばらばらに生活したりしたことで、現在、経済的精神的に追い込まれており、自分たちの取った行動が正しかったと自らを奮い立たせることで耐えている、どちらかといえば少数派の人々だ。彼らはいまだに、食品を選んだり、孤立しないように同じ境遇の仲間の絆を保とうと頑張っている。

第二のグループは、低線量の被ばくが安全だと確信しているわけではないが、さりとて第一のグループの取った行動についていけなかった人々。放射線レベルとその意味するところをある程度理解するとともに、三年間の生活体験によって今回の被ばくの健康影響は気にするほどのものではないと思って生活している。二つのグループは交わることもなく、対話も成立しない。どちらのグループの人々もあえて他のグループの人々を説得しようとはせず、相手との距離をおいている。

最近では、時間の経過と除染により、ほぼどこの地域でも線量が低くなっている。健康診断の結果や被ばくの推定などから、今のところ事故による健康への悪影響はほとんど見られないことの報道が多くなっている。避難している自治体では、一部で帰還に向けての計画が進みはじめ、第一のグループの様子が記事になることもめっきり少なくなり、友達が黙って元住んでいたところに戻るなど、孤立感を深めつつある。もちろん、第二のグループでも人によっては、折々のニュースによって不安になる場合がないわけではない。

こうした状況で、「美味しんぼ」騒ぎが起き、県内の書店では当の漫画誌が売り切れ、報道も加熱した。第一のグループにとっては、久々の歓迎すべきことで、漫画を読んで、「やはりそうだったのか、自分たちが白い目で見られながら頑張ってきたことは正しかったのだ」と感じたはずだ。度重なる批判に対して出版元が「低線量放射線の影響の検証や現地の声を伝える機会が減っている。議論を今一度深める一助となることを願って作者が採用し、編集部もこれを重視して掲載した」と主張しているが、第一のグループにとっては納得のいくものだ。

第二のグループからすると、漫画の作者は不安を再び煽り、風評被害をまきちらして金稼ぎをしようとするけしからん奴に思える。「井戸川前町長は鼻血を出したというが、自分も含め近しい人で鼻血が出たことなど聞いたことがない。」「やっぱりあの人はどうかしている」といった声もある。帰還のため懸命に除染をし、風評も落ち着き始めているのに、二度と住めないなどと書かれ水を注されるは御免被りたい。

今後何年か掛けて、実績を積み重ねることで極端な危険論は姿を消すだろう。「美味しんぼ」騒ぎは、そうなるまでの一つのステップだと思う。この騒ぎは人々が気持ちの奥で心配している低線量による健康影響について、いままで政治家、政府、自治体が情報公開や説明に及び腰であったことも浮かび上がらせた。今回発言した政治家や首長は、「美味しんぼ」騒ぎが起きるまで、あえて住民に対してこの程度の低線量では健康に問題なしとの積極的な発言はしていなかった。

メディアも環境省が発表する各地点の線量をその日の分だけ報じるだけで、トレンド表示、日本各地あるいは北欧などの線量との比較もしてこなかった。生協が各地の生協職員に線量計を着用させ、福島の生協職員の線量と差がないことを確認したのとは大違いだ。県立医大の行っている健康管理調査や避難住民の健康診断についての問題点の指摘もない。低線量被ばくと健康影響については、単なる両論併記で読者の判断を助けるような内容ではなかった。

住民もわかりにくいからといって知ろうとしないことを、この騒ぎをきっかけに改める必要がある。心配な人もそうでない人も、健康管理調査アンケートを提出し、検診を受けることだ。この「美味しんぼ」騒ぎが、事故から3年経った今も、ばらまかれた放射性物質によって福島の人々が分断されていることを全国の人々が知るきっかけになることを望みたい。

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