日本エネルギー会議

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汚染水の誤移送

先月中頃に公表された福島第一原発での汚染水の誤移送について、このほど東京電力の原因調査が終わり、原子力規制委員会もこれ以上の調査の必要性を認めないこととなった。2月には同現場で、汚染水を貯蔵していたタンクにつながる三つの弁が開き、高濃度汚染水が流入してタンクからあふれた事故があったこともあり、単なるヒューマンエラーか故意に行われたものかが判らないとして、移送された先の焼却工作建屋と移送元のプロセス主建屋ともに建物に施錠されていないこと、分電盤もやはり施錠されていなかったことなども問題とされた。

東京電力は社員への聞き取りで、同じ日に両方の建屋に入り、空調設備の電源を入れた社員がいたことを確認。建屋で作業していた社員が空調などの設備を動かそうとした際、誤って同じ分電盤内の移送ポンプのスイッチを入れた可能性が高いとし、原子力規制委員は「これ以上調査しても誤操作か悪意があったのか結論は出ない。有効な対策は取られている」と述べたという。福島第一原発では、昨年の3月に使用済燃料冷却システムが停止した構内の停電があり、分電盤内にネズミの焼死体が見つかったため、ネズミなどの小動物が分電盤に入ってショートしたと推定されたことがあった。私は、東京電力に求める対策が、当該分電盤や移送関連の機器や手順に限られることがないように望みたい。

一連の事故は私に現役時代に見た二つの情景を思い起こさせた。一つはテレビコマーシャルやPRホールで映写していた運転員の働く姿を写した映像である。整然とした中央制御室でマニュアルと図面を見ながら運転責任者(当直長)が指示をすると、制御盤の前の運転員がこれを復唱し、指差呼称をしながら計器を確認し、スイッチを入れる。現場の操作盤の前では、ページング装置(双方向の構内放送)や構内PHSで指示を受けて、同じように復唱、指差呼称をしながら現場の操作盤でスイッチを入れたり、機器の動作状況を確認するヘルメット姿の運転員がいる。すべてのスイッチには何のスイッチであるかの表示があり、盤を収納するケースには鍵がかかっている。運転員はまずそれを開錠することから始める。スイッチには操作禁止の札(タグ)が掛かっている。大きなバルブなどは動かないようにチェーンがまわされ、南京錠が付けられている。

もう一つの情景は、原発の建設、特に土木建築が主体の時期での現場で、業界では「野丁場」と呼ばれている。通路も足場も照明も分電盤も全部仮設。ケーブルも何本も輻輳し、どれがどの機器につながっているかわからず、トラブルがあれば一本づつたどっていかねばならない。掘削作業で埋設管をユンボーのシャベルでひっかけてしまうこともしばしばだった。荷台を跳ね上げたままダンプが走ったために、架空ケーブルを切ったこともあった。毎日のように現場の様子が変わって、昨日まで通れたところが通れなくなる。継続して働いているのはゼネコンの職員だけで、一つの工事単位が終われば、作業グループはすぐに現場を去って見たこともない新たなグループが入ってくる。

建設期間中、福島第一原発の廃炉現場では、野丁場といって良い外観、環境だが、扱っているものは、運転中の原発の建屋内でも滅多にお目にかかれないレベルの高い大量の汚染水やガレキだ。作業に使用する分電盤やケーブル、それに配管、弁などの設備の仕様、操作に当たっての手順や取扱基準は、是非とも通常の原発の運転に準じてやってもらいたい。作業者や監督者が、今の廃炉現場を外見だけ見て、建設現場のような感覚でいてもらっては困るということを、原子力規制委員会は強く東京電力に求めるべきだ。

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