日本エネルギー会議

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NHKスペシャルの手法

先週放送のNHKスペシャル「原発・廃炉への道②誰が作業を担うのか」は、映像に語らせる手法に徹した作り方だった。最近、テレビでは事件事故があると民間の研究所にモックアップを造って実験をして見せるのが流行りだが、番組ではそれを現地ロケや作業者のインタビュー、有識者の発言に代えて組み立てていた。重層構造の請負体制を説明するのにCGが使われたが、どのような経緯でその構造が造られ、それがどのような光と影を持つのか、廃炉では、それはどのような問題を惹起しているのかはあまり語られなかった。発注者から末端企業まで赤、青、黄の糸で結ばれた立体が使われ、内容よりこの鮮やかな絵だけが今でも印象として残っている。 

切り張りの映像は再現実験の時の装置や部品に過ぎず、最後に多くの視聴者が持つであろう結論を、これまた有識者に語らせて念押しすることが行われた。

映像、特に動画は説得力、誘導力を持つ。中越沖地震で変圧器から黒煙が立つ映像を延々と流したことで、何も語らずとも多くの人に地震と原発の関係を訴えたことがまだ記憶にある。これと対照的なのが、選挙の時の候補者の政見放送だ。政見放送が違和感を持つのは、まるでテレビの創世期のニュース番組のように、たった一つ画面が何分も動かずに語りだけで行われているからだ。候補者が内容のないスピーチをすれば、この程度の人かと識ることができて、肩書きや風貌に迷わされずに済む。

文章であれば、書く側も読む側も文章の中でロジックチェックをしながら書いたり読んだり出来る。だが、動画では言いたいことへの証拠となるものを次から次へと映し出して、「果たしてそうだろうか」と考える暇を与えない。出てきた証拠が、有利なものだけを取り上げたかどうかは視聴者は判定出来ない。最近のハリウッド映画のように息もつかせぬアクション場面の連続だ。これを切れ目なく繰り出して結論へと誘導していく。見せるのでも語るのでもなく「文章で書く」という手法の思考上優れた点を改めて認識させられる。番組の製作者も、台本を書いたり消したりして内容を練り上げているに違いない。

昨夜の番組で有識者によって念押しされた結論は「人材確保の問題をなんとかしないと、本当に大変なことになりますよ」である。この結論は驚くようなことではないし、さすがだと思うような提言でもない。ビートたけしが医療バラエティー番組で「放っておくと、大変なことになりますよ」と言っているのと変わりない。結論は、奇しくもタイトルの「誰が作業を担うのか」に戻った感がある。廃炉に人材確保の問題があることを啓蒙したいのなら、これで番組制作の目的はほぼ達成できたと言える。

一時間という枠の中では、それで精一杯だったのかもしれないが、国や東京電力の当事者たちが、この問題をどのように捉え、どのようにして行こうとしているのかの追求が出来ておらず、視聴者である国民が、政策の良し悪しを判断するヒントを与えることにはなっていなかった。重層構造に改良を加えるのか、それに代わる体制としてどんなものが考えられるのか。スリーマイルやチェルノブイリの例を紹介した部分で「新たな採用」「プライドを持たせる」「重い財政負担」などはあったが、体制の話はあまり出なかった。

廃炉について「国が全面に出る」と言うだけで、一向に具体的なものが見えない今、そこまで求めるのは無理なのかもしれないが、国が口先だけで具体策を打ち出せていない現実を視聴者に分からせることも必要だ。そのあたりは続編に期待するしかない。

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