日本エネルギー会議

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作法の意味

日本では原発に限らず、最先端の科学技術であっても事始めに神事が省略されることはほとんどない。かつて私が勤務していた敦賀原発で定期検査にあたって、所長以下関係者が、当日の朝、地元の常宮神社に詣で、安全祈願をするのが習わしとなっていた。常宮神社の禰宜は織田信長に比叡山を追われた高僧の末裔で、どちらかといえば原発に批判的な人物だった。そのためか、詔には「放射能の漏れ出ることなく…」の文句が入り、頭を垂れて聞いている私たちは苦笑するしかなかった。

神事では二礼二拍手一礼が行われるが、その意味を知っている人は少ない。ものの本によれば、最初に行うニ拝は神に対する敬意を意味し、次に行われるニ拍手には、右手が神で、左手が人を表し、2回拍手することで神と人がつながることを表す。最後の一拝は、神に感謝し送り出す意味が込められている。

原発では運転操作をはじめとして、ほとんどすべてがマニュアル化されており、その通りに行うことが求められている。マニュアルは試運転に先立って、ベテランの運転経験者が集まって検討され作成される。試運転中にもその内容が適切であるかを確認しながら完成するが、一旦マニュアルが作られると運転員はそれに従わなくてはならなくなる。最強の運転員は試運転経験者だと言われる所以である。その後、事故やトラブルが発生すると、その都度修正が行われ、マニュアルは完成に近づく。

その頃になると、マニュアルがどのような根拠でつくられたか、何故そのような操作の順番なのかなどのノウハウは、運転員教育の中で伝えられる。実際にマニュアルに書いてあることの意味が完全にわからなくとも、そのとおりに操作すれば運転は出来る。また、マニュアルに忠実に行うことが求められるので次第に内容に疑問を持たなくなる傾向がある。起動など重要な操作では、検査官がマニュアルを見ながら運転員の挙動をチェックし、少しの応用動作でも問題にすれば、運転員はますます忠実にやることに重点を置くようになる。

そのような弊害を防ぐために、教育面での工夫が必要となるが、同じ装置産業である製鉄所の例では、マニュアルに書かれている制限値などの数字に何故その数値なのかという理由が併記されているという。

福島第一原発の事故では、過酷事故が発生した場合、状況は複雑でマニュアルでは完全に対応することが難しいことが明らかになった。今後、ハード面は新基準に合致しているかについて、規制委員会の厳しい審査が待っているが、事故対応に関する運転員の技量や保修員の知識経験などソフト面の改善とその評価についても真剣な見直しが行われるべきと考える。

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