日本エネルギー会議

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認識の差

原子力関係者のメールのやり取りの中で次のような文章を見かけた。
「原爆と原発事故を関連付けて論じる方のお気持ちもわかりますが、一方は武器としての殺人目的の使用、他方は設計条件を上回る天災によってもたらされた不慮の事故であり、私はその2つを並行して議論することに同意しません。
どんなに設計しても人工の設備や道具は予期せぬ事故に対して完全にはなりません。飛行機、自動車、鉄道、道路なども原発と同じことです。突如として起きた地震で自動車や電車が転覆するのも設計不良というべきでしょうか。」

第一のパラグラフでは、原爆と原発事故を関連付けて論ずることは出来ないとしていて、これはよくわかる。もちろん、直接的にはメルトダウンに至る全電源喪失は千年に一度と言われる大津波によって引き起こされたことを否定はしない。

だが、福島第一原発の事故が「設計条件を上回る天災によってもたらされた不慮の事故」と言っているのは、東京電力が出した最初の報告書と同じであり、事実は設計条件そのものが誤っていて、その通りに建設が行われ、そのまま何十年も運転をし続けたための事故だったのではないか。これは多くの関係者も認めていることであり、日本原電の東海第二原発は、大震災の直前に、その誤りをごく小規模の防潮堤を作ることで修正し、かろうじて過酷事故を免れたこと、東北電力女川原発では、建設時に津波を考えて海面からの高さを十分にとったことなどから福島第一原発の場合、不慮の事故には当たらない。

第二のパラグラフでは、「どんなに設計しても人工の設備や道具は予期せぬ事故に対して完全にはなりません」と書かれている。その通りであるが、それゆえ、残余のリスク対策が必要なのである。国や東京電力が過酷事故に備え、予備電源の確保や防潮堤の建設などを怠ったことの罪は免れない。
文章では、交通手段である自動車や電車との比較をされていて、「突如として起きた地震で自動車や電車が転覆するのも設計不良というべきでしょうか」と書かれているが、原発と交通機関や運輸機器とでは、その事故の影響力を考えると比較するのは適当ではない。

最近では、電車では大地震に対しても、先行波を感知することでいち早く制動するようなシステムを取り入れたり、車であれば放送や携帯電話により運転者に注意を与えることが行われているように設計やシステムは改善されつつある。

福島第一原発については、貞観地震の再来の警告が事前にもたらされており、決して突如としてではない。それが証拠に、この警告にしたがって、日本原電は先に述べた対応をとったのである。東京電力の幹部技術者は、津波によって電源室などが水没すれば過酷事故対応が困難になることは十分認識していた。例えるならば、笹子トンネルの天井板崩落の事故の前、トンネルを通過しようとする運転者たちが、ボルトの損耗による板の落下の恐れがあることを知っていたようなものである。
 
原子力関係者の福島第一原発の事故の原因や影響に対する認識は、どのようなものであるかは、原発事故で避難している人々をはじめとする多くの国民の関心事である。メールで書かれている主旨は、原爆と原発の混同を指摘することだということは理解できる。しかし、文中の個々の説明や理屈づけについては、長年原子力界で仕事をし、福島第一原発の事故で避難している者として、認識が違うと言わざるを得ない。

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