日本エネルギー会議

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経験の差

 8月1日付け電気新聞の時評で日本原子力研究開発機構の松浦理事長が「安全性向上の指導的理念」と題して卓見を述べられている。PDFで一枚足らずの長さであるが、内容は濃い。今後、原子力をやっていく上の指導的理念を強固に据え付ける必要があること、原子力安全向上にはひとつひとつの行動を、その指導的理念に照らしていかねばならないこと、アメリカの関係各界には、原子力安全のレベルを少しでも向上させようとするインテグリティ(完全性を求め続けること)への信仰心にも近い憧憬が感じられること、アメリカの原発の安全確保・向上の背景にNRC、INPO、NEIによって構成される三角構造の強力な指導力と衝平な調整力によって実効的に展開してきた歴史があることなどが熱く語られている。
 アメリカ建国は理想に燃えた人々によって成し遂げられ、その子孫たちも理想を追い求めている。スリーマイル事故の後の混乱を経て、安全性を追い求め続ける姿勢を堅持することで、原発を揺るぎなき経済性を持つ電源として維持していくという理想を実現することに関係者が皆、快感を覚えていると、私も感じた。資本主義の本丸であるアメリカで、利益の追求だけでなく、国に対するエネルギー供給の役割を果たすこと、安全をきっちりと成し遂げて行くことの目標意識が、幹部たちに共有されていると言いかえても良い。今日のアメリカの原子力関係者の意識は、アメリカ人が理想とする状況に近づいている。
 我が国では、この意識レベルが低かったと言わざるを得ない。準国産エネルギーをなんとしても確保しようという志は受け継いでいたが、あとは先輩から受け継いだ体制組織や計画の維持、そして保身の考えが強くなっていた。目標も自分たちの時代に破綻させてはいけないというだけのものになっていた。
 何故、アメリカは気高い目標意識の共有が出来たのか。それはアメリカ建国の理想主義もあるが、本当の理由は、スリーマイル事故とその後の規制暗黒時代を規制側と業界が経験し、原発の稼働率や原発を取り巻く状況が酷くなって、原発業界、規制側ともに本当の意味での存続の危機に瀕した経験をしたからだ。
 今まで、さまざまなことがあっても過酷事故は経験しなかった日本の原発。地域独占や総括原価方式という安定した仕組みに守られてきた日本の原発。松浦氏は、「原子力を今後も事業として選択するには、これに挑戦する覚悟が不可欠なのではないかと予感される」と書かれているが、私も今日の危機的状況が、全面的な意識改革につながるかどうかは、予断を許さないと思う。

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