日本エネルギー会議

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汚染した庭石

 東京電力は原発事故で汚染した庭石を買う奇特な人がいると思っているらしい。先日、庭の賠償請求をしたところ、東京電力から庭木や竹垣は賠償するが、庭石は賠償の対象外とするという文書を送ってきた。
 理由を聞くと「庭石は家や構築物とちがって管理せず放置しておいても価値が減少しないから」とのことだった。一見、理屈が通っているようだが、あきらかに、原子力損害賠償紛争審査会の「原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針」に反している。
 指針によれば、「当該財物が本件事故の発生時対象区域内にあり、財物の価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に曝露した場合又は、該当しないものの、財物の種類、性質及び取引態様等から、平均的・一般的な人の認識を基準として、本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には、現実に価値を喪失し又は減少した部分及び除染等の追加的費用について損害と認められる」としている。
 審査会では、不動産も動産も賠償対象として認めているから、庭石が動かせるものと考えても賠償されるはずだ。石で出来た門柱、石づくりの蔵、建物の基礎などは賠償しているから、庭石だけ外すのは明らかに矛盾している。土地の賠償についても、汚染で不動産取引が成立しないほどに価値が減少しているから賠償しているのではないか。土地が賠償されて庭石が賠償されないのは納得がいかない。
 経済産業省の「避難区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」には、財物賠償の基本的考え方として「帰還困難区域においては、事故発生前の価値の全額を賠償する」としており、庭石などを賠償対象から除外することは一切書いていない。東京電力の庭石に関する内部基準はこれを逸脱するものだ。
賠償請求に先立って、東京電力が配布した「解説と記入例」には賠償のやり方とともに、それぞれの方式の詳しい説明が書かれている。それによれば、「建築仕様が特殊な外構、庭木の判定表を用意し、窓口でのご説明を実施させていただきます。特殊な構築物庭木の例として数奇屋門、冠木門、兜門、四脚門、庭園、石積み塀、土塀、築地塀がある」としている。別のページにはイラストを使って説明があり、門や庭園のイラストと説明書きがついている。
それによれば、「庭園とは池を中心にして、築山、庭石、草木を配し、四季折々に鑑賞出来る景色が造形されたもの」となっている。イラストの中心となっているのは庭石や石灯篭である。ちなみに東京電力は自宅の庭を庭園として認めている。
 ところが、後で配布された「現地評価のご案内」および「現地評価調査票」によれば、「庭木は原則として、樹種・高さに応じた単価に数量を乗じて算定する」「草花・芝および苔については、単価に面積を乗じて算定する」となっており、あたかも山林の植林を評価するような手法を定めており、「解説と記入例」で庭園を芸術作品と考えたのとは、まったく反対の考え方である。
 庭石については、鑑定人は庭石を対象外として庭園を鑑定すると書いてある。約束している判定表もいまだに示されていないし、窓口での説明も聞いていない。こんなやり方で評価することを認める鑑定人には、私の庭は鑑定してほしくない。
 東京電力が「庭石は家や構築物とちがって、管理せず放置しておいても価値が減少しないから」としていることについても疑問がある。苔のついた庭石は適当な水分を与えておかないと苔が消えてしまう可能性がある。水分を与えるときも、塩素の入った水道水を大量に与えないなど注意を払って管理していた。また、石についた落ち葉を適当に取らなければならない。草に覆われたり蔦が絡んでしまったりする場合もある。苔むして古びた趣のある石灯篭は日本庭園愛好家の憧れである。
 今のところ、東京電力が前向きな対応をすることは期待薄だ。なぜなら理屈で正しくとも、それが多数の人からの抗議でなければ東京電力には圧力とならないし、メディアも取り上げない。国や県も東京電力への指導には力が入らない。理屈としてはかなり無理があると思われることも、大勢の被災者の声となれば、国や県は動く。
 庭園と言えるような庭の所有者はそれほど多くはない。紛争解決センター(ADR)に申立てをするのが、一番早い解決方法だが、この歳になって東京電力の雇った弁護士相手に争いごとをしていくのは、正直しんどい。

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