日本エネルギー会議

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混合油泥棒

 昨日、自宅のある富岡町の帰還困難区域に一時立ち入りしてきた。須賀川市を午前7時に出発。途中でいわき市のアパートに避難中の友人を乗せて、中継基地の富岡町毛萱波倉地区に向かう。除染作業が居住制限区域まで拡大したためか、国道6号線は以前より車の通行量が多い。
 9時過ぎに毛萱波倉地区に到着。あらかじめ電話で予約して取得しておいた今日一日だけの一時立ち入り許可証を見せて手続きを済ませる。二人分の防護装備、トランシーバー、個人線量計を受け取る。「ねずみ忌避剤は」と聞かれたので、「ください」と答える。触るときには必ず素手でなく、手袋をするように注意される。あいかわらず、すごい数のスタッフだ。だいたい必要数の二倍はいる。避難している人は、この人数について「税金の無駄使い」と皆が言っている。
 今日の目的は庭の草刈り。ひとりでは大変なので友人の応援を頼んだのだ。エンジン付きの草刈機と燃料である混合油を積み込むため、そのまま居住制限区域にある友人宅に向かう。友人宅は兼業農家だが、県道から自宅までの私道は両側から草が覆いかぶさり、車がやっと通れる状態だ。「暑いときは大変だから、自分のところは今度雨が降ったら草刈りに来る」と言う。居住制限区域は時間制限はあるものの、いつでも許可を取らずに帰宅出来るが、帰還困難区域は予約制で月に一度に制限されているから、暑くても今日やらねばならない。
 友人は玄関の鍵をあけて建物の中に入ると、しばらくして板を三枚持って出てきた。よく見ると、その板はネズミ捕りのための粘着材を塗った板で、ねずみが5匹掛かっていた。「これだから困ってしまう」とぼやきながら畑(と言っても草むらだが)にねずみの死骸を捨てに行った。二週間前は8匹取れたそうだ。家の中はねずみの糞が散乱して、方々の柱にかじった跡があるらしい。納屋に草刈機を取りに行ったが、出てこないので行ってみると、ガソリン類を入れる赤い鉄製タンクの入っていた紙箱を持って、「確かこの中に混合油の入ったタンクがあったのだが」と言って探している。
 二人で探したが見つからないので、盗難にあったようだ。ここは居住制限区域で誰でも立ち入れるので、こうしたことが起きやすい。方々で草刈りをしているので、混合油は必要なのだ。幸い、草刈機は鍵のかかった場所に仕舞ってあったので無事だった。しかたがないので、再び国道6号線をいわき市方面に戻る。容器が無いと売ってくれないので、自動車のエンジンオイルの缶を持って、広野町まで戻ったところにガソリンスタンドが一軒営業していたので、混合油を800円買う。
 再び国道6号線で富岡町に入り、消防署の前で交通規制をしているので、許可証と免許証を見せてやっと帰還困難区域に入る。既に10時を過ぎている。帰還困難区域内は電気、水道はおろか道路の補修も出来ていないので、注意深く陥没部分を避けながらの運転となる。人の気配はない。動物たちも以前のようには見かけない。ただ、草木が以前より一層生い茂っている。
 大丈夫と思っていても、自宅が見えるとほっとするものだ。進入道路入口の桜はすっかり大木になっている。次は枝を切らないと車に当たるだろう。自宅の倉庫は地震で鍵が壊れてしまい、戸を締めただけだったが、その中にある私の比較的新しい草刈機とか、高圧注水機は無事だった。混合油をエンジンのシリンダー内によく循環させてから、二年半ぶりに、スタートの紐を力一杯引っ張ると、意外にも1回で起動し、歯のついた錆びた円盤が勢い良く回り始めた。
 家の玄関先にはいつものように、牛の糞、鳥の死骸、そして生い茂った雑草が目立つ。家そのものは変化がなく、10年前に建てたときに、あえて土壁にしておいたので、壁が呼吸してくれているようだ。とりあえず、雨戸を開けて空気の入れ替えをした。
 二人で手分けして、約600坪ある敷地内の草刈りをする。帰宅時の汚染検査でひっかからないように、靴カバーと手袋だけはしたが、防護服は省略。暑いのでときどき縁側で休憩し、水筒から水分を取りながら作業をする。草は背丈ほどになっていて、太さも親指ほどはある。草刈機を左右に振りながら進むと草が束になって倒れる。昨年の枯れた草は、固くなっていて草刈機でも抵抗が強く、その度にエンジンが唸りを上げる。大事な木の幹を傷つけないように慎重に刈り進む。
 スギナとかクローバーのような、この土地にもともとあった雑草が勢いを取り戻している。今は背の高い草が植木に影響しないように刈るだけで、地を這うような草はとても除草出来ない。だが、本当はこれらが復活してしまうのが脅威なのだ。1時近くになって草刈りは終わり、植木にからまった蔦や葛や野ばらのツルを切りにかかる。放置しておけば植木がみんなダメになってしまう。しだれ梅やしだれ桜のように地上まで枝を延ばす木は狙われやすい。また、背の高い雑草から高木の枝にとりつく。
 松の木などは、春先の新芽を止めることが出来なかったので、もはや枝ぶりといったものはなくなってしまった。雑草や蔦はすぐ伸びるので、また、来月申請して来るしかない。庭園の損害について東京電力に賠償請求を出したが一ヶ月経ってもまだ返事はない。
 自宅の南側100メートルから居住制限区域となっていて、道路がバリケードで封鎖されている。農道を使って行ってみるとその農道も途中でガードレールと柵のようなもので封鎖され立ち入り禁止の看板が立っている。だが、脇の林にフェンスがあるわけでもなく、自由に出入り出来る。もしも、車でそこまで乗り付け(居住制限区域だから誰でもノーチェックでそこまでは行ける)あとは、林の中を歩けば帰還困難区域の我が家には簡単に行ける。そもそも私が受け取ったのは「一時立入車両通行証」であり、人については自分で記入する立ち入り者名簿しかない。管理側は、立ち入りは必ず車によるものと考えているようだ。
 家の内外に「ねずみ忌避剤」を撒き、雨戸を閉め、草刈機を仕舞って帰宅することに。中継基地で本日は、二人共、二時間半で6マイクロシーベルトの被ばくだったことを記録。トランシーバーや線量計を返却。汚染検査も車に乗ったままタイヤと靴底だけサーベイしてもらいパス。「何か持ち出したものは」と聞かれたが「何もない」と答え、使用済の装備だけを廃棄するように頼んだ。
 友人宅に立ち寄ると、宣伝カーの音がする。町の注意放送かと思っていたら、だんだん近づいて来る。県道まで出ると、なんと町長選の候補者の宣伝カーと付き添いの支援者の車3台がいた。過去に無投票で三選を果たし、四選を目指す遠藤町長に対抗して、立候補した議長の宮本氏の宣伝カーだ。友人は早速車を降りて候補者と握手。立ち入り自由とはいえ、ほとんど住民のいない町にも来ているのには驚いた。避難先の仮設住宅は毎日のように来るようだが、それだけでは時間が余るのだろうか。

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