日本エネルギー会議

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崩壊の原因

 「世界最大の電力会社」は、メディアが福島第一原発の事故以前に東京電力に対してつけた称号だ。販売電力量は、イタリア1国分に匹敵する3千億キロワット時で、日本の総販売電力量の3分の1を占め、総資産1兆4千億円で関西電力の約2倍の規模。九電力体制とは言っても、その中で東京電力は圧倒的存在であった。柏崎刈羽原発も1サイトとしては世界最大の出力821.2万キロワットを誇り、東京電力の社員もこれを誇りにしていた。
その東京電力が福島第一原発の事故で、国からの支援を受けてなんとか存続するようになるとは誰も考えもしなかったことだ。何故、王国と称されるほど絶対的力を誇っていた企業が崩壊の間際まで追い込まれたか。
 大企業病と言われる状態であったようだが、それだけではない。業界内での図抜けた実力、国内の政治、経済、社会における影響力により、地域やメディアはもちろん、国さえも動かせる存在で、外部の環境変化や内部の矛盾などをブルドーザーのごとくなぎ倒し、天敵のいない状況を作りだしそれを維持しようとしていた。
 関係諸団体のトップは、各電力会社のバランスを考えて決められていたが、2000年を過ぎるころから、ほんの少しの例を除いて東京電力が占めるようになっていたことに、私は懸念を持っていた。再処理のなど困難な問題も、実質的に東京電力が引き受け、官僚も電力各社もそれに従う形になっていた。いくら優秀な社員がいる大組織でも、それだけの重荷を背負えば余裕はなくなる。そこに出てきた貞観地震の問題である。
 プルサーマル計画への影響、網の目のように張り巡らされた利害関係者の存在、従来のいきさつ、企業の基盤ともいうべき首都圏への電力供給責任の問題。こうした状況では、すぐに対応するという結論はまず出てこない。唯一、説得力を持つとすれば、福島第一原発の事故を明確な根拠をもって3月11日以前に予言することしかない。
 昭和48年芥川賞を受賞した森敦は、小説「月山」で、「大きな雪玉は壊れやすいが、大きくなったこと自体が崩壊の原因だ」と書いている。森敦の作品は、作者の言いたいことが、文章の中に巧みに隠されており、普通に読むと平板なストーリーなのだが、雪玉の話のように仏教的な思想が随所にある。それを読んでいるうちに発見し、「深い」と思えるのが、森敦の作品の魅力である。
 福島第一原発の事故は、東京電力という巨大な雪玉が壊れるきっかけとなった。事故の表面的な解明だけでなく、雪玉の持つ「大きくなったこと自体に潜む崩壊の原因」を探るべく、東京電力を取り巻いていた状況や原子力開発の歴史をこれからも何回となく読み返す必要がある。

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