日本エネルギー会議

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緊急事態に必要なこと

 地方自治体が、自然災害や原発事故など緊急事態に対応するには、大きく分けて次の三つが出来ていることが大切である。
  1.緊急事態を引き起こしている原因の除去、被害拡大の防止など
  2.情報の収集、分析、伝達
  3.その他、備えておくべき物資など

 緊急事態は原発事故に限らない。自然災害(地震、津波、高潮、暴風雨、竜巻、落雷、大雪、洪水、山崩れ、山火事、火山爆発)、大火、工場などの爆発や有害化学物質、放射性物質の拡散、航空機の墜落、テロ、外国からの侵略、伝染病などを想定する必要がある。また、その程度についてもレベルが存在する。住民の避難を伴うような事態では、ある程度長期化することも覚悟しておくべきである。さらに、今回のように自然災害と原発災害が複合して起きることも想定する必要がある。以下は福島第一原発の事故の体験からまとめたものである。

1.緊急事態を引き起こしている原因の除去、被害拡大の防止など
 自然災害、人的災害とも多くの場合、自治体がその原因を除去出来るものではなく、住民の避難など被害の拡大防止が主な対応となる。
ただし、消火、河川の決壊、人命救助、財産保護などには、直接に当たることもある。また、国や事業者の行う事故の収束活動、拡大防止活動の支援をする場合もある。
 直接対応、支援とも、まず要員の確保が大切で、このため普段から休祭日、深夜を含む要員の拘束、招集手段、移動手段を考えておく必要がある。
そのうえで、様々な種類の緊急事態について対応をマニュアル化し、訓練をして練度を上げるとともに、マニュアルの修正やより良い方法の検討、不足な物資の補充を常に怠らないことだ。訓練の想定や筋書きは、実例を参考に毎回必ず変化させ、レベルアップを図ることが大切である。一部住民や職員だけを参加させて、無難に終わるようなシナリオでやっていては役に立たないことが、福島第一原発の事故であらためて確認されている。
 要員については、自治体の職員は本人も被災者であり、また家族を持っていることを理解すること、危険な業務に備えて保険なども必要とする。これらも規定化し、内容をあらかじめ労働組合と話をしておく。また、出張や休暇などもあることから、必ず代務者、代行者も決めておくこと。住民も含めて、
医療や放射線など専門知識を持つ者を確保しておくこと、ボランティアの活用も考慮しておいた方が良い。地域の消防団は自治体の職員ではないが、
災害時には大きな役割を期待されるため、津波で多くの犠牲者を出しており、万一に備えての補償などをしっかりしておく必要がある。
 また、自治体の地理的特徴(例えば離島、半島の先端、山間部、大きな河川、海岸、道路など)も、条件として考慮に入れ、外部とのアクセスをどう確保して孤立を防ぐか考えておくことも大切である。
 
2.情報の収集、分析、伝達について
 緊急事態においては、情報の扱い方によって対応の良し悪しが決まる。福島第一原発の事故では、SPEEDIの情報が県職員によって破棄されてしまい役立たなかった。情報の収集、分析、評価、集積、伝達がスムースに行くように準備と訓練が必要である。
 情報伝達は主に通信機器(固定電話、FAX、メール、ケーブルテレビ)によって行なわれるが、自然災害が絡む場合は、まず電源喪失あるいは通信設備やケーブルの損傷により通信不通となることを覚悟しておいた方が良い。携帯電話も災害時にはつながらない可能性があり、無線や衛星携帯電話が必要となる。山間部に避難した場合は、携帯電話の電波は届かない。日頃から、必ず複数の通信手段を確保する必要がある。また、ハイテクばかりに頼らず、より確実なローテク(パトカー先導で人が行く)も活用すべきである。
 テレビを見るにも電源が必要であるが、地震などでは非常用電源が損傷するケースもある。車載のテレビやラジオ、あるいは簡易なエンジン発電機は有効である。
緊急時には情報が殺到して、大切な情報を見落とす可能性が高い。このため、必要な情報だけを流している従来型の訓練では、本番において混乱をきたすおそれがある。大量の雑情報や意図的に誤った情報を流す訓練も検討した方が良い。どちらの方向に何で避難すればよいかの判断は、十分に情報を集めて分析したうえで行う必要がある。
 住民に対する避難指示情報の伝達は通常、電柱のスピーカーなどで一斉放送のかたちで行なわれるが、必ずしも全住民が聞ける状態にあるとは限らない。広報車や消防車などによっても自治体内を巡回して伝えることも併せてやるべきである。飛行機からの呼びかけも効果がある。役場や警察によって避難出来ない人や避難していない人に対し、避難を促すことも必要となる。しかし、寝たきりの病人などは避難させることで命を落とすことがあることも知っておかなければならない。
 携帯電話やメールによって個人的に情報をキャッチし、マイカーでいち早く避難する人もかなりいる。安否確認と避難先で困難に遭う恐れもあるため、自治体が住民の避難状況をいち早く把握出来るように、あらかじめ個人の携帯電話番号をデータとして持ち、これを自治体役場が避難する際に持ち出すことが有効である。避難所において避難した住民に対して、自治体側より、こまめに状況や見通しを伝え、また住民の要望を収集することで、住民の混乱を防止すべきである。また、避難先で住民サービスを行うためにも、サーバーを避難時に持ち出すこと。行政では避難してからの業務に必要なデータのコピーを別の場所にバックアップとして置いておくことが望ましい。

3.その他、備えておくべき物資など
 体制、マニュアル、情報なども大事であるが、緊急事態の現場でものを言うのは兵站である。いかに物資を集め、保管し、使うかが避難した住民の命と苦しみに直結する。
電気は緊急事態にも通信機器や照明器具、電気製品を動かすのに不可欠だ。送電網は自然災害に強いとはいえず、大抵の場合、瞬時に全域が停電となる。したがって、緊急時に使用する建物には、非常用電源装置や蓄電池によって一定時間、電気を使えるようにしておく必要がある。公共施設に設置した自然エネルギーの発電装置や車のバッテリーが役に立つ場合もある。
 原発との安全協定を締結している自治体は、自ら放射線測定や汚染検査が出来るように機器の保有と使用出来る人材を育成しておく必要がある。
 次に大切なのが、燃料である。自動車用や重機用のガソリンや軽油、特に寒冷地では暖房用の灯油の備蓄は欠かせない。停電で街のガソリンスタンドは給油が出来なくなる(手まわしによる給油は可能。ただし、すぐに底をつく)
 全住民が避難すると、食料や水や燃料は相当な量が必要となる。全住民(少なくとも半分以上)が押し寄せてくるので、近隣の自治体は、自分たちの分だけでなく、近隣の住民の分も併せて備蓄しておくことが必要だ。その種類と量について互いに把握しておく必要がある。この他に、福島第一原発の事故で実際に困ったのは、介護用と幼児用のおむつ、幼児用のミルク、医薬品(ヨウ素剤を含む)、トイレットペーパー、灯油である。
 避難所となる体育館などには、毛布以外にプライバシーと保温のために、床に敷くマットと仕切り板(ダンボール製)も準備すべきである。
 全住民が避難出来る避難先を複数、あらかじめ探しておく必要がある。福島第一原発の事故の際も、国や県の指示がないまま、各市町村は馴染みのある姉妹町村などに連絡を取って受け入れを要請した。避難の範囲が拡大することもあるので、20、50、100キロとより遠くに、方向も少なくとも二つ以上にしておく必要がある。訓練にもそれら役場職員に参加してもらうこと。
 避難や支援の受け入れは道路が通れることが条件であり、沿岸部では場合によって、船の使用も考えられる。道路については地震などで破損していることが考えられるので、緊急の復旧や補修のための重機の手配先も契約しておくこと。また、訓練にも参加してもらうことが望ましい。
大勢のための避難手段は大量輸送出来るバスが必要となるが、近隣から必要な台数を確保することが難しく、マイカーも利用せざるを得ない。バスは何往復もすると完了するまでに相当の時間が掛かってしまう。高齢の世帯などはバスによらねばならないが、一般の世帯はマイカーの方が、荷物が持てるので有利である。この場合、避難方向の道路は渋滞となるので、交通整理員など配置する必要がある。
 避難した先に、外部からの支援の人員、物資をどのようなルートでどのように運ぶかについてもあらかじめ検討しておくことが必要である。
 避難を開始した時から、地域への立ち入りを制限する必要がある。道路を封鎖し、立ち入りは許可制とするべきである。無人の地域は可能であれば、防火、防犯のためのパトロールを行うべきである。
 福島第一原発の事故では、家畜やペットの扱いが問題であった。ペットを連れて避難出来るようにする、避難所にペットの居場所を作るなど、どのようにするか検討しておく必要がある。
 最後に、緊急事態で最大の課題である弱者対策について述べておきたい。地域にある病
院、施設、学校、保育所にいる、入院患者、高齢者、要介護者については、あらかじめ避難先を定めて協定(おそらく相互支援協定になる)を締結しておく必要がある。また、車を持たない高齢の一人暮らし、高齢の夫婦も対象とするべきである。
 これらの人々はケアをするスタッフがいなくなれば、たちまち生活が困難になる。しかし、スタッフやその家族も避難しなくてはならない場合があるため、外部からの素早い支援がどうしても必要となる。国や県で、この支援体制を整えておかなければ、市町村では対応は難しい問題である。
 福島第一原発の事故の事例からすると、避難先が決まらないまま、あるいは準備が出来ないままに、移動をすれば必ず犠牲者が出る。病院や施設は、しばし籠城することを選択するべきで、そのための食料、水、医薬品、燃料の備蓄やスタッフの確保をしておき、移動の準備が整ってから適正な移動手段により移動をするべきである。また、病院や施設も自家発電装置、水や下水の維持装置、放射性物質のためのフィルターを建屋に設けること、耐震性の強化をすることなど、籠城出来るようにハード面を改修する必要である。

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