日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

新たな学問を

 福島第一原発の事故に関する政府事故調の委員長であった畑村洋太郎東大名誉教授は、失敗学という新しい分野を開拓したことで知られている。失敗学は、失敗の直接原因と根幹原因を究明し、同じ失敗をしないためにはどうしたらよいかを考え、その得られた知識を世の中に広めていくことを目指した学問だ。原発事故を二度と起こすわけにはいかないから、福島第一原発の事故については、失敗学がおおいに活かされるべきである。
 しかし、失敗学はいわば後知恵だ。いままで原子力技術者たちは原発がいかに安全か、事故が起きる恐れがないかを説明しようとしてきたが、逆にこれからは、原発にはどんな危険性があり、どこが最も弱いかを究明する研究をしなければならない。名前をつけるならば危険予知学である。
 事故は必ず、こちらの弱点をついてくるものだ。現場では思いもかけないことが起きるし、環境条件も一定ではない。大丈夫だろうと少し甘く考えていたところや見過ごしたところに事故やトラブルが起きる。コンクリートの厚い壁があり、放射能を含んだ水が漏れることはないなどと思っていたら、壁を貫通する電線管とコンクリートの隙間から水が下の階まで流れてしまった。鋼鉄製容器は圧力にも熱にも耐えると思っていたら、パッキンが溶けてそこから熱水が噴出した。弁を開けようとしたら、作動させる圧縮空気が不足して動かせなかったなどの事象が起きるものなのだ。最近規制委員会が目をつけたケーブル火災も落とし穴のひとつだ。安全管理とは危険な点を的確に押さえることに尽きる。
 今までは、そんなことをやろうとすれば、やめておけと言われた。福島第一原発に配属された東京電力の若手技術者が、地下に電源室があることに気づいて、上司に「水没したら原子炉に給水出来なくなり危ないですね」と言ったら「君、それはタブーだ」と諭されたことがあったと、事故後にわかった。規制側の高官は「寝た子を起こすな」と命じたと報じられている。
 毎日が切実な戦いである工事現場の安全管理では、危険予知学の考え方は根付いている。既に、私が現役時代に原発の建設や定期検査の現場安全管理を担当していたころ、工事に着手する前に、工事計画書のヒヤリングを行っていた。メーカーの工事責任者や工事会社の監督から、工事の内容を工事計画書に沿って、逐次具体的に説明してもらい、その工事の危険性や現場の環境に十分注意が払われているかを確認していた。例えば「屋外作業があるが、もし途中で大雨が降ってきた場合、今の準備で大丈夫なのか」「作業する現場は通路の脇だが、途中で大物の搬入があった場合、この足場は邪魔にならないか」「ピット内でガス溶断を続ければ酸欠にならないか」「作業中に突然、停電しても問題ないか」などの質問をするのである。現場では朝礼で危険予知(KY)活動が行われ、作業員から本日の作業で最も気をつけるべき危険な点を挙げてもらい全員で確認していた。これらは今でも続けられている。システムとしての原発の危険予知というならば、ストレステストがそれに当たるのかも知れないが、それだけにとどまらず、この方面の危険予知学は大いに発展を遂げてもらう必要がある。その際、「原発を大事故に導くにはどうするか」を研究することは、原発にはどのような弱点があるかが分かることであり、その情報がテロリストへ流出しないように気をつける必要がある。

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康