日本エネルギー会議

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さすがの報告書

福島第一原発の事故が起きてから、これまでに国会事故調、政府事故調、民間事故調、東電の報告書、原技協の報告書など多くの調査報告書が出され、これらを読むのに忙しかった。今回、新たに読んだのは、原子力発電運転協会(INPO)の「福島第一原子力発電所における原子力事故に関する特別報告書」の追録である「福島第一原子力発電所における原子力事故から得た教訓」(2012年8月)を、原技協(JANTI)が翻訳したものである。序文に「将来、同様な状況に直面した場合に対応できるようにより良い備えをすることを目的にしている」とされているが、もし自分が福島第一原発の事故に遭遇したとして、何があればもう少し良い対応が出来たかという観点で書かれており、強い説得力を持っている。
私はこの追録を読んで、今までの報告書にはないものを感じ、「この違いが大切だ」と思うと同時に、さすがにINPOだと感心した。その理由は次のようなものである。
(1)設計想定を超える状況となる可能性がある事象が発生した後、最初の数時間に必要な緊急時対応のための要員、機材及び設備についてはもちろん、その後長期にわたる対応体制を早くつくる必要があるとしていること。
(2)運転員と緊急時対応要員が、自然災害によるものも含め、複数号機の原子力事故の際に起こりうる状況に対応し、切り抜けられるように、十分に能力が試されかつ現実的であるように訓練及び定期演習されているべきと強調していること。
(3)最善の事故対応戦略や実施手順を作るには、電力会社だけでなく原子炉メーカとのコミュニケーション、議論、情報交換が必要だとしていること。
(4)高度なストレスを伴う長時間に及ぶ事象が、人員の健康、士気、意思決定能力に与える影響を認識し、それによる影響を軽減する対策を設けなければならないとしていること。
(5)安全系機器が重要な安全機能(崩壊熱除去)を維持するために必要  とされる場合には、「壊れるまで運転する(runto-failure)」という対応を検討せよとしていること。
(6)一般的に、緊急時対応の訓練では厳しい環境下で、個人が意思決定するもしくは、指示を与えなければならないようなことはしていないが、必要に応じ正しい意思決定をするための準備をしておいた方が良いとしていること。
(7)幸いにも、3.11の津波は、福島第一・福島第二に多くの人員がいる平日の日勤時に発生したが、バックシフトと週末に通常出所している人員では、事象発生直後の数時間の対応には不十分であったと思われると指摘していること。
(8)炉心冷却状態の追跡管理、及び格納容器のベント操作時における外部放出の判断を著しく困難にしないため、重要なプラントパラメーターと使用済燃料プールの水位及び温度、サイト内外の線量率に関する情報を得るための主要及び代替の方法を用意し、訓練・演習を活用するべきであるとしていること。
(9)東電はプラントの保修業務や運転支援などを協力企業に依存していたが、事故対応時も瓦礫の撤去と道路修復のための重機の運転、可搬型発電機と消防車の運転、燃料タンカーの操作、ケーブルの接続や終端処理などについては、電力社員を訓練しておくべきであったと指摘していること。
(10)対応について、さまざまな現場の条件により、想定通りの時間あるいは今回行った時間では達成できないことがあることを、訓練計画などにおいて読み込んでおく必要があると指摘していること。

 追録には、この他にも同じような事柄が多く書かれているが、これらに共通していることは、現場で事故に直面した際に求められる真に現実的な思考である。言い方を変えれば、事故のダメージの程度や対応能力に関して、常に最悪を考える、ラッキーなどあり得ないという厳しい姿勢である。私が、他の報告書に感じる現場との違和感を、この追録はほとんど持っていない。
INPOの追録は、「ここで示される教訓は、各国で既に取られた対策において、それほど考慮されていない可能性のある新しい教訓を含んでいるので、各電力会社は十分にこのレポートをレビューし、過酷事象に対するバリアのさらなる強化のためにその教訓を如何に使用できるかを検討してもらいたい」としている。
(INPO)
アメリカのスリーマイル島の原発事故が契機となって原発の安全性および信頼性の向上のための支援組織として1979年に米国の原子力発電事業者により設立され、10か国以上の海外の電気事業者が加盟している。活動内容としては、プラント評価活動、訓練計画の評価・認定、事象解析、緊急時対応等への支援、世界規模のコンピュータ・ネットワークによる情報の交換など。

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